【本当にヒラスズキなのか?】美味しいカブト焼き(スズキ16)
ヒラスズキは絶品ですが、市場に出回る事が少ないために、食べる機会は非常に限られます。それがゆえに、ヒラスズキが釣れた際には、大切に食べなければなりません。お刺身や洗いは当たり前ですが、ヒラスズキの頭部は大きいので、カブト焼きに向いています。
先日、四国の磯でヒラスズキと思われるスズキを釣ってきましたので、さっそく料理に取り掛かろうと思いましたが、その前にこれがヒラスズキであるかという検証を行いたいと思います。
【磯場で検証】600円のスルルー釣りでヒラスズキは釣れるのか?(スズキ15)
実際に釣ってきたヒラスズキと思われる個体(55㎝)
まずは心の準備(ヒラスズキなのか?)
魚の正体を知れば、美味しさが倍増しますので、まずは本当にヒラスズキかどうかを判定する必要があります。
特にヒラスズキは、普段目にすることのない魚ですから、「磯で釣ってきたからヒラスズキに間違いない」という先入観を捨てて、冷静に確認していきましょう。
外見的特徴
日本には3種類のスズキ(マルスズキ・タイリクスズキ・ヒラスズキ)が居ますので、どの種類かを見極めます。
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
タイリクスズキは背中に比較的はっきりとした斑点がありますので、釣ってきた個体とは明らかに違うという事が分かります。
では次に、マルスズキとの違いです。体高の違い・目の大きさの違い・尾びれの付け根の広さの違い等が報告されていますが、大量のマルスズキとヒラスズキを同時に釣る事など無いですから、直接比較はできません。
釣り上げた個体を見て「何かちょっと肩あたりが盛り上がってる気がする・・・」という程度の感覚しか持てませんので、判定は下記の2つの方法を使うことにしました。
① 第二背びれの軟乗数
スズキの背びれは、前側(第一背びれ)と後ろ側(第二背びれ)に分かれています。
そのうち、第二背びれにある「筋のような軟骨(軟乗)」の数で、マルスズキとヒラスズキの違いを判断する事ができます。
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115(グラフは日本語に改変)
グラフを見て頂くと、マルスズキの軟乗数は12~14本であるのに対して、ヒラスズキの軟乗数は14~16本となっています。つまり、この法則を使えば9割以上の確率でヒラスズキを判定できるという事です。
実際の判定
第二背びれを広げて、実際に軟乗数を数えてみました。
15本ありました。これは間違いなくヒラスズキです。つり場では、ヒレを広げて確認する時間などありませんから、うちに帰ってゆっくりできる判定方法です。
② さらなる検証(下顎の鱗列)
また、ヒラスズキの特徴として、下顎の鱗の列が発達している事も知られています。マルスズキの場合は、大半の個体には鱗の列が無く、あったとしても未発達なために、これも判定に使われます。
下の写真はスズキのアゴを斜め下から見た実際の写真となります。
白い矢頭が下顎の鱗列(片方のみ撮影)
ありました。はっきりとした鱗の列です。
ヒラスズキ判定の結果
以上のように、①第二背びれの軟乗数、②下顎の鱗の列の有無から、私が釣り上げた個体はヒラスズキであると結論しました。
これで初めて料理に取り掛かれる状態となります。
カブト焼き
それではヒラスズキである事が判明したので、感謝して料理を開始します。
ヒラスズキは刺身や、皮を付けたままでしゃぶしゃぶにするなど、美味しい料理が楽しめるのは勿論ですが、頭部も大きいので、頭回りの身が多くカブト焼きにできます。また、カマの部分も付ければ、豪華な料理になります。
調理はシンプルです。
- カマの部分を付けた状態で頭を切り取る
- エラを取って、内部の血合いを洗う
- 水気をキッチンペーパーでふき取る
- 塩をまぶす
- オーブンで焼き上げる(できあがり)
刺身やソテーでは味わえない、内部の熱で蒸されたホクホクとした身が何とも美味しい一品です。
オーブンによって焼け具合が異なりますので、見ながら焼いてください。頭部が大きいと感じた時には半分に切って良いですし、魚焼きコンロでパリッとさせる方法もありますので、挑戦してみてくだい。
追伸
魚を三枚におろしている際に、刺身をつまみ食いしたのですが、脂の乗った白身があまりにも美味しかったので、背骨から中落を集めて、更に小さなお刺身を作ってしまいました。
関連記事
最後に
ヒラスズキは滅多に手に入るものではありません。釣りなどで入手できた際には、感謝をして調べ、すべての身を食べつくす気持ちで楽しみましょう。
参考:
Kōji Yokogawa Morphological differences between species of the sea bass genus Lateolabrax (Teleostei, Perciformes), with particular emphasis on growth-related changes(2019)Zookeys 859 69-115
村瀬敦宣 屋久島産標本に基づくヒラスズキLateolabrax latusの 再記載と河川における生息状況(2012)魚類学雑誌 59(1):11–20
【磯場で検証】600円のスルルー釣りでヒラスズキは釣れるのか?(スズキ15)
スズキは、ゴカイ・カニ・イワシなどを生きた餌を食べて生活しています。
また、成長に伴い、たくさんのエネルギーが得られるように食性が変化し、40cm以上になると餌のほどんどが小魚になります。そんな生態のため、「スズキ釣りはルアーで狙う」というが一般的な釣り方になっています。
一般的にスズキはルアーで狙うターゲットである
スズキは釣りたいが、ルアー釣りはしていない
私は普段ルアー釣りをメインに釣りに出かける事はありません。
「グレ(メジナ)のフカセ釣り」をメインにしていますので、餌はルアーではなく「オキアミ」です。そのため、釣行の際にルアーを持ち歩く事はありませんし、「ルアーを使うスズキ狙いは、ちょっとなー」と気持ち的にも二の足を踏んでしまうのが現状でした。
そんな折、スルルー釣りという方法が普及しているという事を知りました。
スルルー釣りとは
沖縄生まれのスルルー釣りは、簡単に言えば、「冷凍キビナゴを餌・撒き餌とした磯場での全誘導のフカセ釣り」です。
沖縄ではキビナゴの事を「スルルー」と言う事から、そう呼ばれていて、そのターゲットはハタ類・青物・ヒラスズキ・マダイと非常に多彩です。
私がこの釣り方に注目したのは、まさにこの「ターゲットが多彩である」という点です。「グレ釣り」のために磯に行って、グレのような中層でエビを食べる魚以外のターゲットが狙えるなら、本当に良い選択肢だと思いました。
そして特に、「人生で一度でいいからヒラスズキを釣ってみたい」というのが素直な感情です。
検証の機会が訪れる
とは言え、「じゃあ、来週、ススルー釣りをするために磯に行こうか」というほどの自信はありません。何せ、私にとっても大切な「釣りの機会」ですし、その一回を「スルルー釣りという未知の釣り」に費やせるほどの勇気はありませんでした。
そんなモヤモヤを抱えながらの6月。突然の機会が訪れました。
私の住む四国では、いわゆる「梅雨グレ」シーズンが始まります。グレと言えば、有名なのは12月の「寒グレ」ですが、6月はそれに次ぐ「梅雨グレ」と言われる大型グレを狙えるシーズンです。
私も「梅雨グレ」を求めて徳島県の磯場に行って参りました。下の写真は、その時の釣り座の後方の撮影です。
始めての磯場だったのですが、何かいい感じの磯場です。サラシができています。グレ釣りが目的の私でも、「こういうサラシの下にはヒラスズキが居る」と聞いた事があります(見たことはありませんが)。
そして、このサラシを見て、私は決意をしました。「今日はグレ釣りよりも ”スルルー釣り” を優先しよう」と。
餌とまき餌
餌とまき餌は、もしものためにと買ってきた「キビナゴ小粒」の冷凍餌(300円)を2パックです。
付けエサにキビナゴを10匹確保して、残りの約50匹を2つにちぎって撒き餌としました。2パックにした理由は、ヒラスズキが釣れた際には、「600円しか餌を使っていないので、ルアーを買うよりも安く抑えた」と言いたかったからです。
仕掛け
グレ釣りのために来ているので、仕掛けはグレ釣りの仕掛けをそのまま転用しました。
- 竿:磯竿1.75号、5.3m
- 道糸:ナイロン2号
- ハリス:フロロカーボン1.5号(2ヒロ)を直結で道糸と連結
- ウキと錘:ともにB、ウキ止めナシの全誘導
- キビナゴの付け方:下記のように目から通して、背中がけ
検証の時1
朝マズメの瞬間です。まき餌を3回ほどして、10分後に準備が整ったので、仕掛け投入してみました。まずは、アクションなしで、まさにフカセのような釣り方で始めました。
仕掛けがなじんだ瞬間。ウキがきれいに沈みます。
ガシラ(カサゴ)でした・・・。
グレ釣りに来て、ガシラを釣る人はまず居ませんから、30㎝程度の大型のモノがちょこちょこと掛かります。サバの切り身を餌にしたブッコミ釣りの時にもこんな感じの釣果が出ますから、「魚が食わないような釣法ではないよなー」と何故か安心しました。
検証の時2
しかしながら、ガシラを釣りに来た訳ではなく、あくまでもターゲットはヒラスズキなので、ちょっと沖に流して、アクションも入れてみました。
瞬間。
なんと、55cmのヒラスズキが掛かりました。
「すごい…」の一言です。
「おー、ホントにサラシの中にヒラスズキがいるんだ…」、いや、それよりも「死んだ魚であるキビナゴにヒラスズキが掛かるんだー」と本当に驚きました。
その後、上記で釣り上げた50cmヒラスズキよりも大きいと思われるヒラスズキが2回ほどかかりましたが、魚影は見えたものの取り込む事はできませんでした。グレ釣りの「ついでの釣り」として仕掛けを流用したために、細めのラインでスルルー釣りをした事と、狭いサラシ場で挑戦したのが問題だったと思われます。
本当に残念でした。
10匹のキビナゴで釣れたモノ
付けエサとしての10匹のキビナゴで、最終的に30㎝以上のガシラ2匹。それ以下のガシラ2匹。55cmのヒラスズキ1匹、サバ2匹、逃がした何か3匹という結果になりました。
エサ持ちが良い分、餌に対して100%の確率でターゲットの存在を感じながら、釣りができる良い釣りであるという感覚を持ちました。
結論として言える事
それでは「600円のスルルー釣りでヒラスズキは釣れるのか?」という検証結果ですが、上記の通り、結論として「ヒラスズキが釣れる」事を確認できました。
実釣時間として、朝マズメの1時間程度です。
仕掛けを本格的にして、まき餌を追加したら、もっと大きい個体を捕らえられると思いますし、1200円程度までお金をかけても良いかもしれないと思いました。
本当のスルルー釣りは撒き餌として、キロ単位のブロックのキビナゴを使うでらしいので、いっそうの事、それでも良いかもしれないとも思い始めています。
皆様も釣りに出かける際には、スルルー釣りをするためにキビナゴを持っていく習慣を付けてみてはいかがでしょうか?
追伸
人生で初めてヒラスズキを釣って、この日は完全に満足してしまい、その後のグレ釣りではあまり大きい個体が釣れませんでした。これがこの日、最大の個体です。
このグレ以外は、すべてリリースしましたが、それでも、私は満足しています。
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参考
【タイリクスズキvol.4】静岡県のマンホールで発見(スズキ14)
現在、日本には3種類のスズキが住んでいます。
まず、一般的にスズキ(シーバス)と呼ばれるのは、日本沿岸全域に住むマルスズキうを指します。次に主に西日本の磯に住むヒラスズキ。最後に主に中国・台湾に住むタイリクスズキ(ホシスズキ)です。
3種類のスズキ
それでは、その3種類のスズキの特徴を見てみましょう。
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
マルスズキに対してヒラスズキの特徴は体高がある事です。また体が扁平であるという特徴があります。一方、タイリクスズキの特徴は背中の部分にはっきりとした黒い斑点がある事です。
そして、このタイリクスズキなんですが、実は外来種です。
外来種としてのタイリクスズキ
タイリクスズキは1980年代に養殖用として中国から持ち込まれました。マルスズキと比較して、水温が低下しても成長し続けるというメリットからです。
例えばマルスズキやヒラスズキは水温が20℃を下回ると活性が低下して成長が止まってしまいますが、タイリクスズキは水温が15℃になるまで成長を続けます。結果、マルスズキと比較して約1.5倍の成長速度を保つ事ができますので、養殖に適している魚種という事ができます。
つまり養殖の対象として、タイリクスズキは中国から輸入されていた訳です。しかしながら、養殖は海で行われるので、台風などで生け簀が破損してしまうと、大海原へ逃げ出してしまうわけです。
現在、日本近海で見られるタイリクスズキは、このような養殖から逃げ出した個体だと考えられています。
問題の一枚
さて、ここで静岡県の浜松市肴町にあるマンホールを見て頂きましょう。
濱松驛からほど近い肴町エリアに限定のマンホールがあるという情報をキャッチしたので狩ってきた。
— みなもとむさし@奧羽越縱斷銃彈旅行 (@minamu4545) 2015年11月25日
ヒラメカレイ(どっちか判別できません)とスズキかな?
そういや、家康も鈴木の出だったね。新田系得川氏の出というのは後付け設定なので注意。 pic.twitter.com/jj8eOhIWQ5
右上のマンホールの絵柄は明らかにスズキです。
この浜松市の肴町(さかなまち)は、江戸時代に浜松城のお抱えの魚商からスタートして、やがて魚市場ができ、第二次世界大戦前までは静岡県の海産業の中心にありました。マンホールの絵柄はその時代の記憶を残すためのデザインになっています。
さてマンホールのスズキがですが、明らかな斑点があります・・・。
タイリクスズキなのでしょうか?
タイリクスズキの特徴
タイリクスズキの特徴は、先に述べたように背中に黒い斑点がある事ですが、マルスズキにも背中に斑点がある個体もいますので、一概に斑点の有無だけでは、判定できません。
両者の決定的な違いは、側線に対する斑点のある位置です。
(A)マルスズキ、(B)タイリクスズキ 引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
側線とは、魚には体側中心にある水流を感じる感覚器官です。マルスズキでは、斑点があるのは側線の上側だけですが、タイリクスズキでは側線の下まであります。
マンホールの判定
さて、マンホールのスズキの判定です。
上の図では側線を赤い点線で示していますが、側線の下側にも斑点がある事が分かります。
どうやらタイリクスズキのようですね
タイリクスズキが日本で確認された当初は、九州・四国に限定されてましたが、その生態域は、徐々に広がっています。静岡の浜名湖では2008年に初めて確認されました。
今後の生態系への影響がどうなるかはわからないですが、マルスズキに比べ、タイリクスズキは脂がのって美味しいという意見もありますので、皆様も機会を見て食してください。
関連記事
タイリクスズキ vol.01~03
【タイリクスズキ01】外来種か?帰ってきたのか?あつ森までも(スズキ06)
まとめ
浜松のマンホールはタイリクスズキだった
参考:
Kōji Yokogawa Morphological differences between species of the sea bass genus Lateolabrax (Teleostei, Perciformes), with particular emphasis on growth-related changes(2019)Zookeys 859 69-115
https://matsusaku.hatenablog.com/entry/20050902/1125657306
https://fish-exp.pref.shizuoka.jp/hamanako/6_pro/pdf_hamana/hamana522.pdf
【すだて漁】江戸前で家族の狩猟魂に火をつけろ(スズキ13)
休日に家族や恋人同士で「魚釣り」に出かける事があると思います。
「折角だから釣らせてあげたい」という気持ちばかりが先走って、結局は「釣れない」、しかも「自分も楽しめない」という最悪のケースに陥る事も多々あると思います。せっかく釣りに来たのに残念な休日ですね。
そんな皆様にお勧めするのは、ズバリ「すだて漁」です。
すだて漁を360度カメラで撮ってみました。
— 海と日本PROJECT (@Umitonippon) 2018年8月27日
「すだて漁」は干潟に定置網を張っておき、引き潮時に入り込んで逃げ遅れた魚をタモ網や手づかみで捕まえる東京湾の伝統漁法です。今は木更津の金田地区でしか体験できないそうですよ。#日本財団 #海と日本 pic.twitter.com/yk3IuRzZRg
すだて(簀立て)漁とは
簀(す)とは、すだれのように竹を編んだものをいいます。
それを干潮時に海の浅瀬に立てて、魚が逃げられないように大きな迷路を作るのがすだて漁です。
魚類は障害物にぶつかった際には、その障害物に沿って移動するという習性がありますので、その習性をうまく利用して、先端の溜まり部分に魚を集める漁となります。
先端に溜まった魚は、皆で海に入ってアミで捕まえます。
狩猟魂に火が付く
膝まで海に浸かって浅瀬をどんどん進むと、もう、バチャバチャと大物がうごめいています。この瞬間がたまりません。狩猟魂に火が付きます。
ただし思い出してください。
ここは、子供や女性に楽しんでもらうために来た場所です。特に大きなスズキなどは、まさに早いもの勝ちになりますので、「我先に…」とならない心の強さが必要になります。
ちょっと視点を変えて、ワタリガニ狙いとかが、ちょうどいいかもしれません。
すだて漁で捕れる魚
現在すだて漁が行われているのは千葉県の木更津なので、江戸前の魚になります。
スズキやボラ、クロダイ、アナゴなどは当たり前ですが、運良ければ、ダツ、アオリイカなどもかかります。
すだて漁にいってきました。 都心で狩猟!? 東京湾で“捕まえて、食べる”を実践してみた https://t.co/46lgHoQ5hX #デイリー新潮
— 玉置標本 (@hyouhon) 2017年8月5日
ダツが東京湾で捕れるのかと驚きがありますが、その他、真鯛、カレイ、マゴチ、ワタリガニなども捕れます。
すだて漁の歴史
それではここで、このすだれ漁の歴史を見てきましょう。
千葉県のすだれ漁の歴史の始まりは大正時代とされています。
旅館のイベントとして始まったのがきっかけで、それが千葉県に広く伝わりました。
引用;ホテル静養園HP(静養園は現在閉館)
海水浴と潮干狩りを足したようなイベントですから、さぞかし盛り上がったと想像できます。しかし、その「すだて漁」ですが、大正時代以前はどこで行われていたのでしょうか?
琵琶湖の魞漁(エリ漁)
千葉県のすだて漁の起源は、琵琶湖の魞漁(エリ漁)にあります。
魚を捕まえる原理は全く同じですが、琵琶湖の魞漁はその規模が1㎞にも及ぶ巨大なモノで、もはや湖上の建築物と言えるぐらいです。史実が残っているだけでも平安時代の文章がありますので、1000年以上の歴史があるとされています。
下のリンクは、琵琶湖の魞漁に関する動画ですが、これを見て頂ければ、その巨大さが分かって頂けると思います。
フナを捕まえる魞漁の時には、網の目を粗くし、琵琶湖の小鮎のような小さな魚が逃げられるように工夫されています。まさに、太古の昔から受け継がれる持続可能な漁業です。
皆様も歴史を感じつつ、狩猟魂に火をつけてみてはいかがでしょうか?
最後に
富津市埋立記念館の建築デザインをご覧ください。
この記念館は、漁に使用した船や器具の展示を通して、埋め立て前の海の姿を紹介し、若い世代に伝える施設です。何か気づきませんでしょうか?
引用:富津市HP
外観の曲線は「すだて」をイメージして設計されたとの事です。
住所 千葉県富津市新井932‐3
https://www.city.futtsu.lg.jp/0000000915.html
まとめ
ご家族皆様で「すだて漁」をお楽しみください
すだて漁に関する連絡先;
網元つぼや、平日:大人一人6,500円(小学生以下一人3,000円)
http://sudate.web.fc2.com/sudate02.html
すだて実三丸
参考:
https://maruchiba.jp/hojin/kankousozaisheet/documents/26kisarazu1.pdf
http://www.ne.jp/asahi/anesaki/ichihara/umi/sudate/sudate.htm
kenkyuhokoku_162_08 (2)近世・近代史料による琵琶湖のエリ発達史の再検討
【マイクロプラスチック】捕食者スズキにはどれくらい蓄積しているのか(スズキ12)
最近、何かと話題に挙がっているマイクロプラスチックに関してです。
2004年にアメリカの科学雑誌サインエスに「Lost at see: Where Is All the Plastic?」という論文が発表されて以来、日本でもすっかり定着した自然環境問題となりました。
今回は、魚類として高次捕食者であるスズキに注目しまして、そのスズキにどのくらいのマイクロプラスチックが蓄積しているかを見てみましょう。
マイクロプラスチックとは
廃棄されたプラスチックが海に流れ出て、紫外線や波の影響で劣化したもので、直径が5mm以下のものをいいます。
プラスチックは自然分解されにくいので、浮遊して潮目などに溜まる特徴があるために、プランクトンを食べる魚の体内に蓄積されているのが問題視されています。
2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)においては、このままのペースで増加した場合、2050年には海のプラスチックの量が魚の量を超えるという試算も報告されています。
プラスチックは体に悪いのか
長期的な調査が必要なので、何とも言えない部分もあるのですが、現在の報告では、プラスチックに含まれている添加剤や、プラスチックが吸収した汚染物質が健康被害につながる可能性が指摘されています。
更に小さなプラスチックは細胞の中まで入ってくるという報告もありますので、今後も注意を払ってリスクを測定する必要があります。
日本における魚類調査
それでは、本題であるスズキのマイクロプラスチックの蓄積量を見てみましょう。
大阪湾と東京湾の魚類のマイクロプラスチック、Taishi Ushijima(2018年)を改変
この調査は、大阪湾・東京湾ともにかなり奥まった領域で行われていますが、カタクチイワシにもマアジにも比較的多くのマイクロプラスチックが蓄積しています。
しかしその一方で、イワシやアジを餌とするスズキには、6個体中1匹にしかマイクロプラスチックが見つかっていません(しかもその一匹もプラスチック片が一つ見つかっただけでした)。
意外に少ないので逆に驚きました。
なぜスズキにはマイクロプラスチックが蓄積していないのか
スズキが小魚を食べていないという可能性はどうでしょうか?
確かにスズキの食性は雑食的で、節足動物のゴカイやカニも食べてていますので可能性はゼロではありません。しかしながら、今回の調査の対象となった40㎝以上のスズキです。スズキの胃の内容物を調べた報告では、40㎝以上のスズキの餌は、80%が小魚であるという研究報告がありますので、確実にイワシなどの小魚を食べていると考えられます。
また、スズキが餌としてマイクロプラスチックの蓄積していない魚を選んで食べている訳もないですから、スズキはマイクロプラスチックを確実に体内に入れている訳です。しかし、それにも関わらず、スズキには蓄積していないのです。なぜなのでしょうか?
下の写真は、カタクチイワシから見つかるマイクロプラスチックを示しています。
この報告によります、カタクチイワシから見つかるマイクロプラスチックの8割以上が、下の写真に示したような0.5mm以下のモノでした(写真の下側の白線が0.5mmです)。
カタクチイワシのマイクロプラスチック(図内の白線が0.5mm)引用;Kosuke Tanaka(2016)
大部分が0.5mm以下という事ですから、おそらく、体長の大きいスズキは糞としてマイクロプラスチックを排出できていると考えれます。
一方的にスズキの体内にプラスチックが蓄積される訳でなさそうなので、ちょっと安心しました。しかしながら、プラスチックの添加物や、プラスチックが吸収していた有害物質は体内に蓄積している可能性があるので、今後もその研究を見守る必要はありそうです。
人の体の中にもマイクロプラスチック
これまで、魚のマイクロプラスチックに関して見てみましたが、ヒトにはマイクロプラスチックは蓄積していないのでしょうか?
オーストリアの研究チームは、2018年に欧州消化器病学会で、ヒトもマイクロプラスチックを摂取している事を報告しています。各国の被験者の便からマイクロプラスチックが検出されたのです。
研究調査では、天然塩の9割にはマイクロプラスチックが含まれていると言われていますし、シラスやイカナゴなどの小魚をそのまま食べれば、当然の結果と言えばそうなのかもしれませんが、多少のショックを受けてしまいます。
未来への対策は万全か
マイクロプラスチックの対策として、たとえば環境省が生態分解性プラスチックを推進したり、海洋ごみの回収なども行われています。
国民の意識としても、スーパーマーケットのプラスチックバックの有償化やプラスチックストローの廃止などを経て、変わりつつあると思われます。
プラスチックの生産量は、ここ50年で20倍ほど増加しました。その背景にあるのはプラスチックが「安い」からです。そこには環境コストが上乗せされていなかった事を改めて意識する時代が来たという事なのでしょう。
最後に
ボラやスズキを食べる猛禽類のミサゴの狩りをご覧ください。
普段は空中から華麗にスズキを捕まえますが、間違えて、ポイ捨てされたお菓子のパッケージにアタックしています。
まずは成功例(スズキ)
今日のミサゴさん
— Caos (@caosudragon) 2020年1月15日
獲物はしっかりですが
ピントがイマイチ残念! pic.twitter.com/xboPqa1min
次に失敗例。ミサゴ間違えて、お菓子のパッケージに。
怒り!
— hiro (@hiro8008) 2018年12月3日
ミサゴエリアで、ダイブ写真を確認してビックリ‥お菓子の袋⁈。
おいおい誰が捨てたか知らんが、こうやって自然界に悪影響を及ぼすだよ!ゴミは持ち帰ろう(涙#ミサゴ #ゴミ #ゴミ清掃 #お菓子 pic.twitter.com/tOebvGNciq
ポイ捨て、やめましょうね。
関連記事
頂点捕食者の実力
まとめ
・日本の湾内でもカタクチイワシの体内にマイクロプラスチックの蓄積が認められたが、意外にも捕食者であるスズキでは多くなかった
参考:
https://science.sciencemag.org/content/304/5672/838
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H1U_S6A120C1000000/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe/41/4/41_107/_pdf
http://www.hyogo-suigi.jp/suisan/seika/kenpo/pdf/kenpo32-1.pdf
https://www.nature.com/articles/srep34351?WT.feed_name=subjects_ocean-sciences
https://www.asahi.com/articles/ASLBS0T3HLBRUHBI058.html
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/101900449/
https://gooddo.jp/magazine/oceans/marine_pollution/plastic_garbage/4965/
【スズキを狩るミサゴ】頂点捕食者の実力(スズキ11)
日本沿岸において、最強の捕食者に君臨する魚類はスズキに間違いありません。
スズキが持っている特徴である「生きている獲物であれば何でも食べるという雑食性」と「海水から淡水までという生活域の広さ」は、彼らの地位を裏付ける生態と言えます。
それでは、河口域・沿岸域の生態系ピラミッドを見てみましょう。
この生態系ピラミッドを見ますと、最下部の微生物から始まって、プランクトン、小魚、そしてスズキが居ますが、その上にさらに「ミサゴ」という生物がいますね。
そのミサゴですが、皆様はご存じでしょうか?
ミサゴとは
ミサゴは禽類猛で、肉食の鳥類です。
大きさが約50cmで、トビと同じくらいの大きさです。
トビがカエル・トカゲ・ネズミなどを食べるのに対し、ミサゴの餌のほとんどは魚であり,河川,河口,海岸など水辺で多く観察されます。
名前の由来は、川や海に飛び込んで魚を捕まえる事から「水探(みさご)」と呼ばれたり、「魚鷹(うおたか)」という別名もあります。英名では「Osprey、オスプレイ」と呼ばれています。
ミサゴの実力
それでは生態ピラミッドの頂点にいるミサゴの「狩りの実力」とはどの程度のモノなのでしょうか?
下の写真はミサゴの巣にのこされた魚の骨です。
(a) ボラ主鰓蓋骨および下鰓蓋骨,(b) スズキ前鰓蓋骨,(c) ウマヅラハギ第 一背鰭棘,(d) フナ属主鰓蓋骨,(e) ウマヅラハギ腰帯 引用:香川県高松市屋島におけるミサゴの食性
ミサゴが、ボラ・スズキ・フナ・ウマズラハギなどを食べている事が分かります。
写真(b)のスズキの前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)は5cm程度ですがら、全長でいうと40cmは超えていると思われます。
ミサゴが50cm程度ですから、ほぼ自分の大きさと同じ魚をターゲットにしているという事です。
ミサゴのその瞬間
ではそのミサゴの狩猟を見て頂きましょう。彼らの実力は一目瞭然です。
ボラ
水面近くをゆったりと泳いでいる印象があるボラですから、結構大きい個体でも狩られてしまいます。
そして、ボラだけでなく、チヌやスズキもしっかり狩られています。
チヌ(クロダイ)
縮景園 にてミサゴ モーニング
— ADA (@ignio4) 2019年1月9日
チヌ 獲得 (*^_^*) pic.twitter.com/3kfh41eb8P
スズキ
縮景園 にて ミサゴ 狩りモーニング
— ADA (@ignio4) 2019年1月19日
いきなり スズキ君ゲット 🤗 pic.twitter.com/dqDhCVUC7p
— Khalil Gaz (@KhalilGaz) 2020年1月23日
これを見ると、スズキが完全にミサゴのターゲットになっているのが分かります。
40cmぐらいのスズキは「群れ」を作る事が知られていますが、その生態は、ミサゴから身を守る役割も果たしているのかもしれません。
続いて、ミサゴが魚をとらえる瞬間を連続写真でご覧ください。
水の中で体をうねらせて、結構なバトルを繰り広げていたんではないと思われますが、片足だけで器用に捕まえています。本当にお見事です。
まさに、生態系のピラピッドの頂点と言えるミサゴです。
関連記事
ミスをするミサゴ
まとめ
・河川/ 沿岸系における生態系のピラミッドでは、ミサゴが頂点として君臨している
参考
https://www.n-kd.jp/content/files/handbook/4-4.pdf
https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/pamphlet/ikimono/pdf/ctll1r0000004trkmisago.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1986/54/1/54_1_45/_pdf/-char/en
【スズキの生態】宍道湖の農薬問題から考える最強の捕食者(スズキ10)
今回の記事では、島根県の宍道湖(しんじこ)で起こった農薬問題からスズキの生態を考えたいと思います。
島根県の汽水湖・宍道湖では、約300種類の魚介類が生息していますが、その中でも7種類の魚介類が宍道湖七珍とされ、郷土料理となっています。宍道湖七珍はスズキ・モロゲエビ・ウナギ・アマサギ(ワカサギ)・シラウオ・コイ・シジミの頭文字をとって、「スモウ アシコシ」として覚える事ができます。
島根旅行が楽しみになる宍道湖七珍ですが、その宍道湖七珍のうち、1994年頃からワカサギやウナギの漁獲量が激減しています。
特にワカサギの漁獲量はほぼ0にまで落ち込んでしまいました。一体何が起こったか見ていきましょう。
生態系調査の結果
宍道湖のワカサギとウナギの減少を受けて、産業技術総合研究所などの研究グループが生態系調査を開始しました。
その調査によりますと1994年以降に起こっているワカサギやウナギの減少の原因が,1993年以降に使用されてきたネオニコチノイド系農薬によって引き起こされていたと、2019年末に米科学誌サイエンスに報告されました。サイエンスは世界の三大科学雑誌の一つです。
引用:Masumi Yamamuro et al (2019) science Vol. 366, Issue 6465, pp. 620-623
農薬使用開始から約一年で生態系が破壊されているのですから、その影響を見過ごす事ができないほど大きなモノです。
論文報告では、ワカサギやウナギの減少に関しては大きく報じれていますが、生態系の中で捕食者として君臨するスズキには影響がなかったのでしょうか?順を追ってみてみましょう。
殺虫剤・ネオニコチノイド系農薬とは
タバコの葉に含まれているニコチンに似た成分(ネオニコチノイド)をベースにした殺虫剤です。1990年代に市場に現れ、世界で一番使われている殺虫剤ですが、害虫以外のハチや赤とんぼも殺してしまうために、問題視されています。
現在、ヨーロッパでは使用禁止されていますが、アメリカでは規制が始まったばかりで、日本ではまだ規制さえもありません。
宍道湖への影響
宍道湖周辺では1993年からネオニコチノイド系農薬が使用され始めました。
その時期を前後したワカサギとウナギの漁獲量を見てください。
ネオニコチノイド系農薬の使用量とワカサギとウナギの漁獲量 Masumi Yamamuro et al (2019) science Vol. 366, Issue 6465, pp. 620-623を日本語に改変
1993年からネオニコチノイド系農薬が使用されてると、翌年の1994年にはほぼ漁獲量が激減して、ワカサギに至ってはほぼ0になっています。
被害を受けたワカサギとウナギ
先に記載しました通り、ネオニコチノイド系農薬は殺虫材ですら、ワカサギやウナギを直接殺すわけではありません。
では、なぜ減少したのかと言いますと、これは、ネオニコチノイド系農薬が動物性プランクトンを減少されたために、それを餌とするワカサギやウナギの減少につながったと考えられています。
動物性プランクトンの推移 Masumi Yamamuro et al (2019) science Vol. 366, Issue 6465, pp. 620-623を日本語に改変
実際に、この時期から宍道湖のオオユスリカやミジンコが減少した事も報告されています。
被害から逃れたシラウオとシジミ
引用:島根県HP
ワカサギやウナギが減少した一方で、シラウオやシジミは減少しませんでした。
これは彼らがネオニコチノイド系農薬の影響を受けない植物性プランクトンを食べているからです。
それでは、スズキはどうだったでしょうか?
スズキの例
引用:島根県HP
スズキもネオニコチノイド系農薬の影響で激減する事はありませんでした。
これはスズキの生態が功を奏したと思われます。
スズキの生態
食性
ご存じの通り、スズキは生きている獲物であれば何でも食べるという雑食性があります。この食性の広さは、農薬でワカサギが減少した状態であっても、その他の魚介類を食べて生活する事ができるためにネオニコチノイド系農薬の影響を受ける事がなかったのだと思われます。
塩分変化への適応
スズキの特徴は何といっても、塩分変化への適応能力が高い事です。
生活域の広さは、河口などの汽水域はもちろん、海水・淡水にも進出する事ができます。実際に宍道湖のスズキは冬になると、中海に移動して、日本海で越冬しますので、生活域の広さが功を奏したと言わざるを得ません。
スズキの移動とワカサギの移動 島根県HPの地図を改変
一方、減少の著しかったワカサギは、産卵のため、宍道湖周辺の河川に上る事が知られていますが、移動距離が少ないために、農薬による影響で大打撃を受けてしまいました。
最後に(未来は?)
スズキは、その生態(食性と生活域の広さ)によって、ネオニコチノイド系農薬の影響を受ける事なく生き残る事ができましたが、この問題は大きく宍道湖の歴史に残る人類の失態だと思われます。
ネオニコチノイド系農薬の販売元であるバイエルは「サイエンスの論文に裏付けがない」と反論しているのですが、この殺虫剤が世界の昆虫を含む節足動物の減少に関与していると報告されています。
日本では、今回の報告を受けて。農薬取締法を改め、2020年4月以降は農薬の安全性評価を厳格化する動きもあります。
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追伸
ネオニコチノイド系農薬だけでなく、農薬に関しては現在でも大きな社会的な問題となっています。その代表格が日本でもおなじみの除草剤「ラウンドアップ(Roundup)」です。
ドイツ製薬大手バイエル(Bayer)は2020年6月24日、除草剤・ラウンドアップの発がん性をめぐって米国で起こされた訴訟の大半について、計100億ドル(約1兆円)超の和解金を支払って決着させることで合意したと発表しました。
まとめ
・宍道湖では、1993年のネオニコチノイド系農薬の使用で約1年で生態系が破綻した
・その中でスズキはその生態(食性と生活域の広さ)で生き残った
・現在、日本ではネオニコチノイド系農薬の使用の厳格化が検討されている
参考
https://science.sciencemag.org/content/366/6465/620
https://biz-journal.jp/2020/03/post_144225.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci/62/4/62_375/_pdf