【タイリクスズキvol.1】外来種か?帰ってきたのか?あつ森までも(スズキ06)
釣り人のSNSサービスにおいて投稿の多い魚種は、1位スズキ・2位アオリイカ・3位メバルとなっています(ウミーノ株式会社、2019年発表)。
スズキは手軽に狙える大物なので、人気があるのも無理はありません。では、そのスズキですが、皆さんはどのような種を以て「スズキ」と言っているのでしょうか?
多くの釣り人にとって、それは、マルスズキ(シーバス)とヒラスズキの事だと思われます。
マルスズキとヒラスズキ
スズキ目・スズキ亜科・スズキ科(マルスズキ・ヒラスズキともに)
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
マルスズキとヒラスズキは非常に似通っていますが、2つは異なる種で、形態的な違いとしては、ヒラスズキは肩が盛り上がり体高が高く、扁平であることが特徴になっています。
また、生息域も異なり、主にマルスズキは日本各地の汽水域に生息していますが、ヒラスズキは塩分濃度の高い磯などに住んでいます。
では、皆様はマルスズキとヒラスズキに続く、第三のスズキ、タイリクスズキをご存じでしょうか?
タイリクスズキ(ホシスズキ)
スズキ目・スズキ亜科・スズキ科
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
マルスズキとの最も大きな形態的な違いは、タイリクスズキの背中に黒点がある事です。生息域は、中国、台湾、朝鮮半島で、マルスズキよりも、川などの塩分濃度の低い領域も好み、淡水でも産卵をする事が知られています。
しかし、中国や朝鮮半島に住むタイリクスズキがなぜ、第三のスズキなのでしょうか?
それは、実際には日本に住んでいるからです。
日本に住むタイリクスズキ
下のSNSでは、徳島の市場でタイリクスズキを見つけたとの事です。
これは明らかにタイリクスズキです。
もちろん徳島だけでなく、九州・瀬戸内海でもタイリクスズキが見つかっています。
それでは、中国や朝鮮半島に住むタイリクスズキが、なぜ日本にいるのでしょうか?
1980年代にやってきた養殖用タイリクスズキ
ご存じの通り、スズキは季節によって、まったく食味が変わってきます。特に冬のスズキは産卵を終えて、すっかりやせ細っているために、決して美味しいモノとは言えません。実際に市場価格も1/5程度に下がってしまいます。
そこで安定したスズキを市場に出す目的で、1980年代に養殖が始まりました。
この養殖の際に採用されたのが、タイリクスズキです
養殖魚としての利点
養殖魚としてのタイリクスズキは、成長速度と適応水温の2つの面でマルスズキ・ヒラスズキに勝っていました。
マルスズキ・ヒラスズキに比べ、タイリクスズキは成長速度が1.5倍なので、早く出荷ができるという利点がありました。さらに、マルスズキ、ヒラスズキは海水温が20℃を下回る11月ごろから成長が止まってしまいますが、タイリクスズキは15℃まで成長を続けるという利点もありました。
つまり、冬も餌をしっかりと食べて、脂ののった状態で出荷できるという事です。
鮨屋さんの中では、養殖スズキしか出さないというところもあるので、安定した食味はその魅力の一つとして知られています。
ちなみに、野生のスズキは生きた餌しか食べませんが、養殖では、ペレット状の餌を食べてすくすくと育ちます。
ペレット状の餌 引用:全国海水養魚協会HP
このようなペレットでスズキが釣れるのなら挑戦したいモノですが、野生ではなかなか難しそうですね。
では、この養殖タイリクスズキと日本近海に現れたタイリクスズキとの間に関係はあるのでしょうか?
養殖魚から野生魚へ
現在、日本近海で見つかっているタリクスズキは、その個体が見つかった地域から、養殖の個体が逃げ出したと考えられています。(DNA解析の結果では、中国のタイリクスズキと日本のタイリクスズキは同一の種である事が判明しています)
現在、環境省HPでは、タイリクスズキを外来種としてとらえて、「環境に対しての被害があるかどうかを、今後も調査すべき外来生物」に指定しています。これは、ソウギョやヨーロッパウナギと同じ扱いです。
そして「今後も調査すべき外来生物」とされていますが、養殖から逃げ出したタイリクスズキの追跡は現実的に難しいので、実際にどのような生活しているのかは明らかにはなっていないのが現状です。
しかし、高知大学の研究では、野生環境でタイリクスズキとマルスズキの交雑種も見つかっていますので、生態系への影響を今後も見守る必要があるのは間違いありません。
外来種は「生態系を荒らす」という意味で、何かと悪者になってしまうご時世です。タイリクスズキも今後、どのような影響を及ぼすのかは誰にも想像がつきません。
しかしながら、ここでちょっと考えていただきたいのは、タイリクスズキは純正の外来種とは言い切れない側面があるという事です。
昔は日本にいたタイリクスズキ
上記のように、現在、タイリクスズキは外来種です。
しかしながら実はタイリクスズキは、そのむかし日本に住んでいた魚であった事を示す生き証人が現在も日本にいます。彼らは有明産スズキと呼ばれています。
つまり、外来種ではなく、長い目で見ると「おかえりなさい」なのかもしれません。
(問題の太古のタイリクスズキに関しては、次の記事をご覧いただければ幸いです)
関連記事:
タイリクスズキvol.2
shigehara-nishiki.hatenablog.com
タイリクスズキvol.3
追伸
ゲーム「あつまれ動物の森【あつ森】」が販売されてからしばらく経ちますが、何かとこのゲームの名前を耳にする機会も増えてきました。
最近、私は「ヘラブナ」を鑑賞用に買おうと思って、ネットで値段を調べましたら、検索結果の一覧が「フナの値段【あつ森】」ばかりになってしまい、本当に驚いてしまいました。
そのような【あつ森】人気の中、SNSでは下のようなツイートがありました。
子供がハマってるどうぶつの森を初めてやらせてもらったが、スズキの背鰭に割とハッキリした斑点がある。ということはタイリクスズキなのだろうか?だとするとこの孤島は中国大陸沿岸部、朝鮮半島、あるいは日本のどこか? pic.twitter.com/p8AODzdlAs
— 石井公二(『片手袋研究入門』実業之日本社より発売) (@rakuda2010) 2020年5月13日
こんなところにも、タイリクスズキです。
まとめ
・タイリクスズキは1980年代に養殖のために持ち込まれた
・現在では、養殖から逃げ出したモノが野生化して、マルスズキとの交雑種も確認されている
参考:
Kōji Yokogawa Morphological differences between species of the sea bass genus Lateolabrax (Teleostei, Perciformes), with particular emphasis on growth-related changes(2019)Zookeys 859 69-115
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/73_6_1125/_pdf
https://www.yoshoku.or.jp/gyosyu/suzuki/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/73_6_1125/_pdf
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/caution.html
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23580253/23580253seika.pdf