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【スズキの生活域】海水と淡水のスイッチ切り替え・エラと脳の機能(スズキ05)

スズキの特徴の一つに、生活域の広さが挙げられます。

彼らは、河口などの汽水域を好んで生活をしますが、その一方で、完全な海水域でも、完全な淡水域でも生活する事ができます。

実際に利根川では河口から100Km以上の上流までも遡上していたという記録があるほどです。同じ汽水域に住んでいるボラなどと比べても、生活域の広さは比べようもありません。

本当に彼らの塩分変化への適応能力はすさまじいものですが、この塩分変化への適応とは一体、どのようなモノなのでしょうか?

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  汽水域に住むスズキ(左)とボラ(右)引用:Wikipedia Commons

塩分変化への適応とは

ナメクジを考えればイメージが湧きやすいと思います。塩をかければナメクジから水分が失われて萎みますし、水に入れればナメクジは水分を含んでブヨブヨになってしまいます。つまり外界の塩分濃度と、体の塩分濃度の違いで、水が入ってくるか、出ていくかが決まっているのです。

しかしスズキはどちらの環境でも体内の水分量と塩分量を一定に保つことができます。それは、エラに2つの機能があるからです。

海水魚型のエラ

海水魚のエラは、塩分を輩出する機能があります。

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つまり、海水への移行に伴い、外界の塩分濃度が上がるために、体内から水出ていくようになります。(ナメクジでいうところの縮む状態)

スズキも海水の中では脱水の危機に直面しているのですが、彼らは、まず海水をたくさん飲んで、水分を吸収する事で脱水状態を回避します。

ただし、それだけでは、体内の塩分が過剰になってきますので、同時にエラから塩分を輩出する事で、体内の水分と塩分のバランスを保っています。

 

下の表は、海外研究者の論文であるためにスズキが記載されていないのですが、淡水魚と海水魚に分けて飲水量と体内塩分量を比較しています。

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参考:Perrott 1992 Fish Physiology and Biochemistry、体内塩分濃度は原著では浸透圧/(mOSM/kg)として記載

表を見ていただくと、海水魚と淡水魚の飲水量には大きな違いがあることが分かります。また、体内の塩分濃度には大きな違いがありませんから、余分な塩分を出しているという事も分かります。

 淡水魚型のエラ

海水魚のエラは、塩分を取り込む機能があります。

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海水から淡水への移行に伴い、外界の塩分濃度が下がるために、体内に水がたまるようになります。(ナメクジでいうところのブヨブヨに膨れる状態)

それを回避するために、淡水域のスズキは大量の塩分濃度の低い尿を出します。それに加えて、淡水にわずかに含まれている塩分をエラから取り込む事で、体内の水分と塩分のバランスを保っています。

正反対の機能をもつエラ

つまり、スズキのエラは海水魚型にも、淡水魚型にもなれるという事です。

しかし、機能が正反対でために、2つの機能が同時に働かないようにしなければなりません。

つまり自分がいる環境が海なのか、川なのかを感知するセンサーとそれを決定するスイッチが必要となります。ではセンサーとスイッチはどこにあるのでしょうか?

センサーとスイッチは2本立て

エラの機能

外界の塩濃度を感知するセンサーはエラにあると言われています。

つまり、海水型のエラの細胞が、排出すべき塩分が体内にないと感知された場合、海水型のエラは自然と淡水型のエラに変換されます(エラの細胞が入れ替わります)。

つまり、エラはセンサーとスイッチの役割をしている訳です。

脳の機能

また、脳の中の脳下垂体という部分もセンサーとスイッチの役割をしています。

体内の塩濃度が下がってきたのを脳下垂体の細胞が感知します。その後、プロラクチンというホルモンが分泌され、それがエラの機能を変化させる事が報告されています。

実際に脳下垂体を切除すると、淡水適応できないという事が知られていますので、脳もスイッチとして機能している事は間違いないと考えられています。

最後に

彼らは淡水域と海水域を行き来して、生活の範囲を広げる事で、稚魚の生存率を上昇させ、体を保持するための餌の確保をする事ができました。

スズキの適応能力の高さは、生存競争の中でかなりの武器になったのではないでしょうか?

 

まとめ

・スズキは汽水域だけでなく、完全な海水でも完全な淡水でも生活する事ができる

・外界の塩分濃度に対応するために、エラから塩分を排出したり、吸収したりと、その機能を使い分けている

・エラの機能の使い分けに関わるセンサーとスイッチは、エラと脳の2本立てになっている

 

 参考

https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci/66/4/66_325/_pdf

https://www.press.tokai.ac.jp/webtokai/uminiikiru4.pdf

N. Perrott, C. E. Grierson, N. Hazon & R. J. Balment Drinking behaviour in sea water and fresh water teleosts, the role of the renin-angiotensin system(1992) Fish Physiology and Biochemistry volume10, pages161–168

http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/05/84-10-02.pdf

http://www.nougaku.jp/award/2019/2Inokuchi.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/83/4/83_WA2417/_pdf/-char/ja

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