【マイクロプラスチック】捕食者スズキにはどれくらい蓄積しているのか(スズキ12)
最近、何かと話題に挙がっているマイクロプラスチックに関してです。
2004年にアメリカの科学雑誌サインエスに「Lost at see: Where Is All the Plastic?」という論文が発表されて以来、日本でもすっかり定着した自然環境問題となりました。
今回は、魚類として高次捕食者であるスズキに注目しまして、そのスズキにどのくらいのマイクロプラスチックが蓄積しているかを見てみましょう。
マイクロプラスチックとは
廃棄されたプラスチックが海に流れ出て、紫外線や波の影響で劣化したもので、直径が5mm以下のものをいいます。
プラスチックは自然分解されにくいので、浮遊して潮目などに溜まる特徴があるために、プランクトンを食べる魚の体内に蓄積されているのが問題視されています。
2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)においては、このままのペースで増加した場合、2050年には海のプラスチックの量が魚の量を超えるという試算も報告されています。
プラスチックは体に悪いのか
長期的な調査が必要なので、何とも言えない部分もあるのですが、現在の報告では、プラスチックに含まれている添加剤や、プラスチックが吸収した汚染物質が健康被害につながる可能性が指摘されています。
更に小さなプラスチックは細胞の中まで入ってくるという報告もありますので、今後も注意を払ってリスクを測定する必要があります。
日本における魚類調査
それでは、本題であるスズキのマイクロプラスチックの蓄積量を見てみましょう。
大阪湾と東京湾の魚類のマイクロプラスチック、Taishi Ushijima(2018年)を改変
この調査は、大阪湾・東京湾ともにかなり奥まった領域で行われていますが、カタクチイワシにもマアジにも比較的多くのマイクロプラスチックが蓄積しています。
しかしその一方で、イワシやアジを餌とするスズキには、6個体中1匹にしかマイクロプラスチックが見つかっていません(しかもその一匹もプラスチック片が一つ見つかっただけでした)。
意外に少ないので逆に驚きました。
なぜスズキにはマイクロプラスチックが蓄積していないのか
スズキが小魚を食べていないという可能性はどうでしょうか?
確かにスズキの食性は雑食的で、節足動物のゴカイやカニも食べてていますので可能性はゼロではありません。しかしながら、今回の調査の対象となった40㎝以上のスズキです。スズキの胃の内容物を調べた報告では、40㎝以上のスズキの餌は、80%が小魚であるという研究報告がありますので、確実にイワシなどの小魚を食べていると考えられます。
また、スズキが餌としてマイクロプラスチックの蓄積していない魚を選んで食べている訳もないですから、スズキはマイクロプラスチックを確実に体内に入れている訳です。しかし、それにも関わらず、スズキには蓄積していないのです。なぜなのでしょうか?
下の写真は、カタクチイワシから見つかるマイクロプラスチックを示しています。
この報告によります、カタクチイワシから見つかるマイクロプラスチックの8割以上が、下の写真に示したような0.5mm以下のモノでした(写真の下側の白線が0.5mmです)。
カタクチイワシのマイクロプラスチック(図内の白線が0.5mm)引用;Kosuke Tanaka(2016)
大部分が0.5mm以下という事ですから、おそらく、体長の大きいスズキは糞としてマイクロプラスチックを排出できていると考えれます。
一方的にスズキの体内にプラスチックが蓄積される訳でなさそうなので、ちょっと安心しました。しかしながら、プラスチックの添加物や、プラスチックが吸収していた有害物質は体内に蓄積している可能性があるので、今後もその研究を見守る必要はありそうです。
人の体の中にもマイクロプラスチック
これまで、魚のマイクロプラスチックに関して見てみましたが、ヒトにはマイクロプラスチックは蓄積していないのでしょうか?
オーストリアの研究チームは、2018年に欧州消化器病学会で、ヒトもマイクロプラスチックを摂取している事を報告しています。各国の被験者の便からマイクロプラスチックが検出されたのです。
研究調査では、天然塩の9割にはマイクロプラスチックが含まれていると言われていますし、シラスやイカナゴなどの小魚をそのまま食べれば、当然の結果と言えばそうなのかもしれませんが、多少のショックを受けてしまいます。
未来への対策は万全か
マイクロプラスチックの対策として、たとえば環境省が生態分解性プラスチックを推進したり、海洋ごみの回収なども行われています。
国民の意識としても、スーパーマーケットのプラスチックバックの有償化やプラスチックストローの廃止などを経て、変わりつつあると思われます。
プラスチックの生産量は、ここ50年で20倍ほど増加しました。その背景にあるのはプラスチックが「安い」からです。そこには環境コストが上乗せされていなかった事を改めて意識する時代が来たという事なのでしょう。
最後に
ボラやスズキを食べる猛禽類のミサゴの狩りをご覧ください。
普段は空中から華麗にスズキを捕まえますが、間違えて、ポイ捨てされたお菓子のパッケージにアタックしています。
まずは成功例(スズキ)
今日のミサゴさん
— Caos (@caosudragon) 2020年1月15日
獲物はしっかりですが
ピントがイマイチ残念! pic.twitter.com/xboPqa1min
次に失敗例。ミサゴ間違えて、お菓子のパッケージに。
怒り!
— hiro (@hiro8008) 2018年12月3日
ミサゴエリアで、ダイブ写真を確認してビックリ‥お菓子の袋⁈。
おいおい誰が捨てたか知らんが、こうやって自然界に悪影響を及ぼすだよ!ゴミは持ち帰ろう(涙#ミサゴ #ゴミ #ゴミ清掃 #お菓子 pic.twitter.com/tOebvGNciq
ポイ捨て、やめましょうね。
関連記事
頂点捕食者の実力
まとめ
・日本の湾内でもカタクチイワシの体内にマイクロプラスチックの蓄積が認められたが、意外にも捕食者であるスズキでは多くなかった
参考:
https://science.sciencemag.org/content/304/5672/838
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H1U_S6A120C1000000/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe/41/4/41_107/_pdf
http://www.hyogo-suigi.jp/suisan/seika/kenpo/pdf/kenpo32-1.pdf
https://www.nature.com/articles/srep34351?WT.feed_name=subjects_ocean-sciences
https://www.asahi.com/articles/ASLBS0T3HLBRUHBI058.html
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/101900449/
https://gooddo.jp/magazine/oceans/marine_pollution/plastic_garbage/4965/