【タイリクスズキvol.3】大野麦風が描く背中の斑点(スズキ09)
以前、姫路市立美術館で版画を拝見しました大野麦風さんのスズキの版画を紹介します。版画と言っても、小学生時分に行った黒一色の版画ではなく、色を重ねて紙に刷る作業を200回も繰り返して出来上がる一枚です。
引用:大野麦風 《大日本魚類画集・スズキ》
版画家・大野麦風さんとは
明治生まれの大野麦風さんは兵庫県にお住まいだった版画家で、昭和13年、日本で最初の魚類生態画として、全72点からなる「大日本魚類画集」を木版画で出版しています。
この本は単なる魚図鑑ではなく生態図鑑となっていて、大野麦風さんの生き生きとした魚の描写に、魚類学者の解説がセットになっているのが特徴です。この本のために、彼は和歌山県沖合で潜水艦に乗って魚を観察した事を、昭和30年代の雑誌のインタビューで語っています。
版画の中の背中の気になる描写
日本でスズキと言いますと河口域に住んでいるマルスズキですが、版画の中に気になる描写がありましたので、ちょっと見ていきましょう。
スズキの背中部分の拡大です。 比較的はっきりと斑点があります。
日本沿岸に住んでいるマルスズキの背中にも小さい斑点がある事がありますが、下の写真を見て頂ければ分かるように、斑点と言えば、ホシスズキとの別名のあるタイリクスズキの特徴の特徴と言えます。
マルスズキとタイリクスズキ 引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
この二種類は遺伝的にも全くの別種で、約100万年前に分岐したと報告されています。
タイリクスズキの特徴
それではタイリクスズキの特徴を見てみましょう。
この特徴を見ますとタイリクスズキが日本に持ち込まれたのは、1980年代ですから、昭和10年代に作られた大日本魚類画集に記載されているはずはありません。では何かの間違いなのでしょうか?
タイリクスズキとマルスズキの違い
京都大学の報告(2019)によりますと、マルスズキとタイリクスズキとの違いは、ヒレの長さや鼻の長さなどの違いがあります。ただし、これらは比較して初めて違いが分かるモノなので素人には判断しづらいと思います。
最も簡単な見分け方は、背中の斑点のあるエリアによる判別です。
(A)マルスズキと(B)タイリクスズキ 引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
魚には体側中心あたりに沿って、側線という水圧や水流を感じる感覚器官があります。この側線と斑点の関係を見ていきますと、マルスズキは斑点があるのは側線の上側だけですが、タイリクスズキでは側線の下まであります。
ではもう一度、大野麦風さんのスズキの背中を見てみましょう。
版画の判定
右の模式図では赤点線で側線を示していますが、どうやら斑点は側線よりも上側にのみ存在しています。つまり、このスズキは斑点があるタイプのマルスズキであり、タイリクスズキではないという事です。
これがタイリクスズキであれば、現在、外来種と考えられているタイリクスズキが養殖が始まる前から日本にいた事になり、日本固有種である事が言えたのですが、そうはいきませんでした。
日本固有のタイリクスズキはいないのか?
タイリクスズキとマルスズキが分岐した約100万年前には、日本とユーラシア大陸は陸続きで、日本、朝鮮半島、中国は大きな干潟を形成していました。
80万年前~15万年前の日本 引用:湊正雄、目でみる 日本列島のおいたち(1971)
当然、この時代には、日本近海にもタイリクスズキはいました。
その証拠に、7万年前から1万年前の有明海では日本独自の種として、タイリクスズキとマルスズキの交雑種(有明産スズキ・ハクラ)が生まれ、現在ででも独立した種として生き残っています。
有明海のスズキです。1/19 pic.twitter.com/swO8BCPywn
— humanz (@nakashima322) 2020年2月2日。
この交雑種が日本にいるという事は、石器時代や縄文時代のような太古の日本には、タイリクスズキが居た事を裏付けています。
この点から、太古から受け継がれた日本固有種のタイリクスズキが、現在の日本で見つかるかもしれないという期待も湧き上がります。
しかしながら、現在の見識では、養殖開始以前には、日本にタイリクスズキは居なかったとされています。それは、日本各地で見つかる現在のタイリクスズキは、中国のタイリクスズキと遺伝的に一致しているという理由があるからです。
このような点も併せて考えますと、やはり大野麦風さんの版画は、タイリクスズキではなく、日本のマルスズキだったのでしょうね。当然と言えば当然なのですが、ちょっと残念な気もします。
ところで
ここまでは版画の中のスズキに注目しましたが、左側に刷られた小さな魚はご存じでしょうか?
もう一方の魚(カゴカキダイ)
引用:左版画-大野麦風 《大日本魚類画集・スズキ》、右写真-Wikipedia Commons
これはカゴカキダイという魚で、熱帯魚のようにも見えますが、東北から九州まで住んでいる魚です。
ゴカイや小さな甲殻類を補食して食べる肉食性の魚で、沿岸に住むという事で、生態域がマルスズキと一致している部分があります。
つまり同じ版画の中にこの2つの魚がいるという事は決して偶然ではなく、大野麦風さんの「生きた魚の生態を示したい」という情熱の現れだと思われます。
そしてこのカゴカキダイ、実は美味です。
サビキ釣りでの外道でよく見かける種ですが、刺身は知る人ぞ知る美味しさです。
カゴカキダイの刺身、、、美味いなぁ。。。きめ細かさ、しっとり感、甘味、、、ヤバイ。ヤバイわ。 pic.twitter.com/D6q9YFDVYY
— 森田釣竿 (@tsurizaomorita) 2014年10月5日
最後に
スズキからカゴカキダイの話に逸れてしまいましたが、皆さんも大野麦風さんの版画を鑑賞してみてください。
姫路市立美術館は「大日本魚類画集」の全72点を所蔵されているという事ですので、再び大野麦風展が開催されると思われます。
関連記事
タイリクスズキvol.1~2
【タイリクスズキ01】外来種か?帰ってきたのか?あつ森までも(スズキ06)
【タイリクスズキvol.2】有明産スズキと太古の日本列島(スズキ07)
大野麦風 フナ
まとめ
参考
https://www.city.himeji.lg.jp/art/cmsfiles/contents/0000008/8941/kiyou11-1.pdf
https://www.city.himeji.lg.jp/art/cmsfiles/contents/0000008/8924/kiyou12-3.pdf
https://zookeys.pensoft.net/article/32624/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/73_6_1125/_pdf
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/151585/1/ynogk01139.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci1953/46/3/46_3_315/_pdf/-char/en
https://www.kubota.co.jp/siryou/pr/urban/pdf/11/pdf/11_2_1.pdf
【島根旅行】スズキを使った郷土料理と「すもう あしこし」(スズキ08)
島根県の出雲大社に行ってみたいと思う方は多いと思います。日本屈指のパワースポットですし、縁結びのご利益もあります。
では、旅程はどうしようと考えた場合、出雲大社にいって、松江市内の玉造温泉に泊まってあとは適当に・・・とか考えてはいないでしょうか?
目の前には宍道湖(しんじこ)があります。
子供連れならハゼ釣り、大人だけなら早朝シーバスです。また、宍道湖の魚を観察できる宍道湖自然館ゴビウスも外せませんし、郷土名物宍道湖七珍も外せません。
ここでは、宍道湖を中心に島根観光の肝を見ていきましょう。
宍道湖(しんじこ)
月に照らされた宍道湖と嫁ケ島
宍道湖(しんじこ)とは、島根県・松江市の中心部にある汽水湖で、塩分濃度は海水の1/10です。汽水湖としては日本で7番目に大きいとされています。
宍道湖の隣にある中海も汽水湖ですが、中海は海に近い分、塩分濃度は高く海水の1/2となっていて、珍しい連結汽水湖となっています。
汽水なので、生息する生物も多様です。
海産物としては、ヤマトシジミが有名ですし、ワカサギの国内生息地の南限としても有名です。
このような海産物は島根県の郷土郷里となっており、有名な7種類を集めた宍道湖七珍として、旅館等で提供されています。
宍道湖七珍
その7種類の覚え方は「相撲足腰(すもうあしこし)」です。
いきなりなぜ相撲の話が出てくるのかと不思議に思われるかもしれませんが、松江は
相撲の発祥の地とされています。さらに江戸時代の松平不昧公時代からは、多くの力士を抱え、相撲興行の発展に貢献しています。史上最強の力士と言われた雷電為衛門も松江藩のお抱えでした。
そんな松江ですから、宍道湖七珍で提供される魚介類7種類の覚え方が「相撲足腰(すもうあしこし)」となった訳です。
スズキの奉書焼き
宍道湖七珍のメインは、スズキを奉書紙に包んで蒸し焼きにした料理です(上写真)。
江戸時代に松平不昧が、漁師が炭でスズキを蒸し焼きにしているのを所望したため、献上する際に、炭の付いたままでは失礼にあたると奉書紙に包んだのが起源です。
奉書紙とは当時の公式文書を書く紙で、クッキングシートの役割を果たしています。
モロゲエビの唐揚げ
標準和名はヨシエビで、唐揚げで提供されます。車エビの仲間で15cm程度の比較的大きなエビですが皮が薄いのが特徴です。水揚量が少ないので、もしも食べる機会があれば、かなりラッキーです。
ウナギの地焼き
ウナギは蒸さずに、関西風のかば焼きにします。近年、宍道湖のウナギはネオニコチノイド系農薬のために減少傾向にあります。農薬問題に関しては記事の最後のリンクをご覧下さい。
アマサギ(ワカサギ)のつけ焼き
産卵のため海からくる降海型のワカサギで大型なのが特徴です。ワカサギは天ぷらで食べる事が多いですが、松江では七輪を使って醤油のつけ焼きです。こちらも農薬のために減少傾向にあります。
シラウオ
宍道湖産のシラウオはシラウオ科シラウオで、ハゼ科のシロウオと区別されています。お刺身・卵とじで食べられる事が多いです。
コイの糸造り
細く切ったコイの洗いと湯引きにした皮に塩ゆでした腹子をあえて食べます。
シジミ汁
漁獲高は全国一。塩分の比較的薄い汽水域のヤマトシジミです。島根旅行に行ってシジミを避けては通れません。
宍道湖七珍は、旅館や和食店で食べられるのはもちろんですが、お酒を飲みながら食べられる場所もありますので、気軽に楽しめるのもうれしいです。
松江市、川京さんです。
「スモウアシコシ」は超美味!?宍道湖で獲れる7品目を召し上がれhttps://t.co/0ftw47ocui#島根 #松江 #宍道湖 #七珍 #川京 #うなぎ #しじみ #ぐるたび pic.twitter.com/483iLTPJIw
— ぐるたび編集部 (@gnavi_gurutabi) 2016年2月25日
https://tabelog.com/shimane/A3201/A320101/32000203/dtlrvwlst/?smp=1
生きた宍道湖七珍をみるならゴビウス
ゴビウスでは、宍道湖七珍の生態を知れる生態展示がされています。西日本でワカサギ(アマサギ)を見る事はなかなかないですし、特にシラウオの群生が見られるのはココだけの特徴です。
施設名になっている「ゴビウス」とは小魚を意味するラテン語で、学名ではハゼを意味しているとの事です。
皆様、ぜひとも宍道湖を中心に島根旅行を楽しんでみてください。
その際は、釣り竿も忘れずに。
関連記事
宍道湖の農薬問題
まとめ
・生きた状態の宍道湖七珍の生態も楽しめる水族館がある
参考
https://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/shinkou/kawa_mizuumi/yutakana/shinjikonakaumi.html
https://www.pref.shimane.lg.jp/admin/seisaku/koho/ichiban/
https://www.izm.ed.jp/cms/cms.php?mode=v&id=154
http://furusato.sanin.jp/p/area/matsue/69/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/19/1/19_41/_pdf
【タイリクスズキvol.2】有明産スズキと太古の日本列島(スズキ07)
スズキ(シーバス)は大人気の釣りのターゲットであり、食用としても、その淡泊な白身は多くの人を惹き付けています。
現在の日本では、スズキと言いますと、マルスズキとヒラスズキが思い出されるところですが、この記事は「第3のスズキ・タイリクスズキ」と「第4のスズキ・有明産スズキ」にフォーカスして行きたいと思います。
この記事は【タイリクスズキ01】の続きとなりまります。
タイリクスズキ(ホシスズキ)とは
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
タイリクスズキのポイントを箇条書きにして示したいと思います。
- 背中やヒレに黒点がある
- 生活域は中国・朝鮮半島
- 養殖用として中国から輸入され、養殖場から逃げ出した個体が野生化している
- 野生化したタイリクスズキとマルスズキの交雑種も見つかっている
- マルスズキよりも、川などの塩分濃度の低い領域も好み、淡水でも産卵する
マルスズキとは近縁種
上にも記述しましたが、高知大学の研究では、養殖場から逃げ出したタイリクスズキと野生のマルスズキの交雑種が日本で見つかっています。
つまり、タイリクスズキとマルスズキは遺伝的にも近縁なので交雑種ができたという事なのですが、どのくらい近縁なのでしょうか?
DNA解析の結果から
スズキ目スズキ科の3種類であるマルスズキ・タイリクスズキ・ヒラスズキの三種類の進化に関してみてみましょう。
下の図はDNA解析によって明らかになった3種類のスズキの系統樹です。
Kōji Yokogawa(1998)SUISANZOSHOKU 46(3), 315-320を日本語に改変
上の図を見て頂けますと、ヒラスズキの種としての分岐が250~200万年前だったのに比べ、マルスズキ・タイリクスズキ分岐が約100万年前ですから、マルスズキとタイリクスズキがいかに近縁種である事が分かります。
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
それでは、第4のスズキと呼ばれる有明産スズキと、上記のスズキ達の関係は何なのでしょうか?見ていきましょう。
第4のスズキ・有明産スズキ
有明海のスズキです。1/19 pic.twitter.com/swO8BCPywn
— humanz (@nakashima322) 2020年2月2日
養殖から逃げ出したタイリクスズキとマルスズキの交雑種のように単発的に発生した個体ではなく、7万年前から有明海で子々孫々繁栄してきた種です。外見的な特徴は、まさにタイリクスズキとマルスズキを足して2で割ったような特徴をしています。
ここまで4種類のスズキを紹介してきました。
それでは、ヒラスズキが分岐した200万年前や、タイリクスズキが分岐した100万年前、有明産スズキが生まれた7万年前の日本はどのような形をしていたのでしょうか?
古地図を見てみましょう。
200万年前の日本(ヒラスズキの分岐)
まず、200万年前の日本を見てみましょう。
200万年前~80万年前の日本 引用:湊正雄、目でみる 日本列島のおいたち(1971)
この時代は氷河期で、ユーラシア大陸と陸続きの状態でした。日本における人類の生活が明らかになっていないような時代に、スズキの祖先からヒラスズキが分岐しました。
現在、ヒラスズキは太平洋側の黒潮海流沿いと日本海側の対馬海流沿いで生息していますが、当時は日本海がまだありませんので、太平洋側で生息していた事が予測できます。
100万年前の日本(タイリクスズキの分岐)
まだ、日本にナウマンゾウも現れていない、この時代にタイリクスズキとマルスズキは分岐しています。(ナウマンゾウは60万~42万年前に出現)
80万年前~15万年前の日本 引用:湊正雄、目でみる 日本列島のおいたち(1971)
日本とユーラシア大陸はまだ陸続きですが、氷河期が緩んできたこの時期は、現在の海岸線とほぼ同じ状況になっています。北海道・関東の一部と、九州の有明海の沿岸がまだ海の中に沈んでいるのが特徴です。
この時期の九州から中国までの海は一つの巨大な干潟だったと考えられていますので、当然、九州の沿岸部にもタイリクスズキが住んでいたと考えれます。
15万年前から1万年前の日本(有明産スズキの誕生)
15万年~1万年前の日本 引用:湊正雄、目でみる 日本列島のおいたち(1971)
この時期になると再び氷河期を迎え、海岸線が張り出しています。
九州の有明海は今まで外洋でしたが、完全に陸地になっています。また、日本半島と朝鮮半島の間には海峡が出来上がっているのも特徴の一つです。
そして、この時期にドラマが起こります。タイリクスズキとマルスズキの交雑種(有明産スズキ)が誕生したのです。交雑は7万年前に始まり、1万年前まで続いたという事ですので、彼らは外洋で生まれたのではなく、海峡から東の干潟も含めた沿岸か内地で生まれたと思われます。
縄文時代の開始が1万6千万年前と言われていますので、有明産スズキの誕生した時期に日本にも文明が生まれたという事です。
1万年前から現在の日本
下はその後の1万年前から現在の地図です。
有明海は現在のような内海を形成して、日本と朝鮮半島の間には海峡ができありましたので、有明海に取り残された生物はそれぞれ隔離された環境で生活する事になります。これを大陸遺存種(氷河遺存種)と言います。有明海には、ムツゴロウなどの珍しい生物がいるのはこのためだと言われており、有明産スズキもこの一例だと考えられています。
1万年~現在の日本 引用:湊正雄、目でみる 日本列島のおいたち(1971)
それでは、ここで有明産スズキの研究経緯と特徴を見てみましょう。
有明産スズキ(ハクラ)
「有明海には、第4のスズキがいる」と言われ始めたのは1980年代のことです。その後、ミトコンドリア・核DNAの解析が進んだ事で、有明海のスズキは、タイリクスズキとマルスズキの交雑集団である事が明らかになりました(2000年)。
その交雑は現在進行形で進んでいる訳ではなく、7万年前に始まり1万年前までに終了していると報告されています。
つまり一万年前~現在は、交雑は起こっていないという事です。おそらく、それまで外洋であった有明海が、氷河期に外洋と閉ざされたことで、そこに住んでいたタイリクスズキとマルスズキの交雑して、中間種が閉鎖空間に生まれたのだと考えられます。
有明産スズキの特徴
外見的にはタイリクスズキの黒点が目立ちます。
また、有明産スズキの中には、タイリクスズキのDNA特徴が強い個体もいれば、逆にマルスズキのDNA特徴が強い個体もいます。このDNAの濃さの違いは生活スタイルにも影響していて、タイリクスズキのDNA特徴が強い個体は、有明海から筑後川などに遡上する行動が見られますし、逆にマルスズキのDNA特徴が強い個体は、河口域にとどまって生活をしています。
有明産スズキから考える事
ここまで、日本列島のなりたりと有明産スズキの誕生を見て頂きました。
現在、タイリクスズキは外来種として考えられていますが、有明産スズキが生まれた際にはタイリクスズキが日本にいたことは間違いありません。今後も養殖場から逃げ出したタイリクスズキに関しては、注意を払わなければなりませんが、私は「おかえりなさい」という気持ちで見ています。
関連記事:
【タイリクスズキ01】
【タイリクスズキ01】外来種か?帰ってきたのか?あつ森までも(スズキ06)
【タイリクスズキ03】
まとめ
・タイリクスズキとマルスズキが分岐したのは100万年前
・その時の日本は、ユーラシア大陸と陸続きで、有明海は外洋であった。
・有明産スズキが生まれたのは7万年前から1万年前まで
・その時の有明海は外洋ではなく、閉鎖されていた。
・有明産スズキは個体ごとのDNAの特徴に基づいて、マルスズキ・タイリクスズキの生態的特徴がそれぞれ現れる
・有明産スズキがうまれた時代には、間違いなく日本にタイリクスズキがいた
参考:
Kōji Yokogawa Morphological differences between species of the sea bass genus Lateolabrax (Teleostei, Perciformes), with particular emphasis on growth-related changes(2019)Zookeys 859 69-115
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/73_6_1125/_pdf
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/151585/1/ynogk01139.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci1953/46/3/46_3_315/_pdf/-char/en
https://www.kubota.co.jp/siryou/pr/urban/pdf/11/pdf/11_2_1.pdf
http://www.fish-isj.jp/iin/nature/article/pdf/5802_series.pdf
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23580253/23580253seika.pdf
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/caution.html
【タイリクスズキvol.1】外来種か?帰ってきたのか?あつ森までも(スズキ06)
釣り人のSNSサービスにおいて投稿の多い魚種は、1位スズキ・2位アオリイカ・3位メバルとなっています(ウミーノ株式会社、2019年発表)。
スズキは手軽に狙える大物なので、人気があるのも無理はありません。では、そのスズキですが、皆さんはどのような種を以て「スズキ」と言っているのでしょうか?
多くの釣り人にとって、それは、マルスズキ(シーバス)とヒラスズキの事だと思われます。
マルスズキとヒラスズキ
スズキ目・スズキ亜科・スズキ科(マルスズキ・ヒラスズキともに)
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
マルスズキとヒラスズキは非常に似通っていますが、2つは異なる種で、形態的な違いとしては、ヒラスズキは肩が盛り上がり体高が高く、扁平であることが特徴になっています。
また、生息域も異なり、主にマルスズキは日本各地の汽水域に生息していますが、ヒラスズキは塩分濃度の高い磯などに住んでいます。
では、皆様はマルスズキとヒラスズキに続く、第三のスズキ、タイリクスズキをご存じでしょうか?
タイリクスズキ(ホシスズキ)
スズキ目・スズキ亜科・スズキ科
引用;Kōji Yokogawa(2019)Zookeys 859 69-115
マルスズキとの最も大きな形態的な違いは、タイリクスズキの背中に黒点がある事です。生息域は、中国、台湾、朝鮮半島で、マルスズキよりも、川などの塩分濃度の低い領域も好み、淡水でも産卵をする事が知られています。
しかし、中国や朝鮮半島に住むタイリクスズキがなぜ、第三のスズキなのでしょうか?
それは、実際には日本に住んでいるからです。
日本に住むタイリクスズキ
下のSNSでは、徳島の市場でタイリクスズキを見つけたとの事です。
これは明らかにタイリクスズキです。
もちろん徳島だけでなく、九州・瀬戸内海でもタイリクスズキが見つかっています。
それでは、中国や朝鮮半島に住むタイリクスズキが、なぜ日本にいるのでしょうか?
1980年代にやってきた養殖用タイリクスズキ
ご存じの通り、スズキは季節によって、まったく食味が変わってきます。特に冬のスズキは産卵を終えて、すっかりやせ細っているために、決して美味しいモノとは言えません。実際に市場価格も1/5程度に下がってしまいます。
そこで安定したスズキを市場に出す目的で、1980年代に養殖が始まりました。
この養殖の際に採用されたのが、タイリクスズキです
養殖魚としての利点
養殖魚としてのタイリクスズキは、成長速度と適応水温の2つの面でマルスズキ・ヒラスズキに勝っていました。
マルスズキ・ヒラスズキに比べ、タイリクスズキは成長速度が1.5倍なので、早く出荷ができるという利点がありました。さらに、マルスズキ、ヒラスズキは海水温が20℃を下回る11月ごろから成長が止まってしまいますが、タイリクスズキは15℃まで成長を続けるという利点もありました。
つまり、冬も餌をしっかりと食べて、脂ののった状態で出荷できるという事です。
鮨屋さんの中では、養殖スズキしか出さないというところもあるので、安定した食味はその魅力の一つとして知られています。
ちなみに、野生のスズキは生きた餌しか食べませんが、養殖では、ペレット状の餌を食べてすくすくと育ちます。
ペレット状の餌 引用:全国海水養魚協会HP
このようなペレットでスズキが釣れるのなら挑戦したいモノですが、野生ではなかなか難しそうですね。
では、この養殖タイリクスズキと日本近海に現れたタイリクスズキとの間に関係はあるのでしょうか?
養殖魚から野生魚へ
現在、日本近海で見つかっているタリクスズキは、その個体が見つかった地域から、養殖の個体が逃げ出したと考えられています。(DNA解析の結果では、中国のタイリクスズキと日本のタイリクスズキは同一の種である事が判明しています)
現在、環境省HPでは、タイリクスズキを外来種としてとらえて、「環境に対しての被害があるかどうかを、今後も調査すべき外来生物」に指定しています。これは、ソウギョやヨーロッパウナギと同じ扱いです。
そして「今後も調査すべき外来生物」とされていますが、養殖から逃げ出したタイリクスズキの追跡は現実的に難しいので、実際にどのような生活しているのかは明らかにはなっていないのが現状です。
しかし、高知大学の研究では、野生環境でタイリクスズキとマルスズキの交雑種も見つかっていますので、生態系への影響を今後も見守る必要があるのは間違いありません。
外来種は「生態系を荒らす」という意味で、何かと悪者になってしまうご時世です。タイリクスズキも今後、どのような影響を及ぼすのかは誰にも想像がつきません。
しかしながら、ここでちょっと考えていただきたいのは、タイリクスズキは純正の外来種とは言い切れない側面があるという事です。
昔は日本にいたタイリクスズキ
上記のように、現在、タイリクスズキは外来種です。
しかしながら実はタイリクスズキは、そのむかし日本に住んでいた魚であった事を示す生き証人が現在も日本にいます。彼らは有明産スズキと呼ばれています。
つまり、外来種ではなく、長い目で見ると「おかえりなさい」なのかもしれません。
(問題の太古のタイリクスズキに関しては、次の記事をご覧いただければ幸いです)
関連記事:
タイリクスズキvol.2
shigehara-nishiki.hatenablog.com
タイリクスズキvol.3
追伸
ゲーム「あつまれ動物の森【あつ森】」が販売されてからしばらく経ちますが、何かとこのゲームの名前を耳にする機会も増えてきました。
最近、私は「ヘラブナ」を鑑賞用に買おうと思って、ネットで値段を調べましたら、検索結果の一覧が「フナの値段【あつ森】」ばかりになってしまい、本当に驚いてしまいました。
そのような【あつ森】人気の中、SNSでは下のようなツイートがありました。
子供がハマってるどうぶつの森を初めてやらせてもらったが、スズキの背鰭に割とハッキリした斑点がある。ということはタイリクスズキなのだろうか?だとするとこの孤島は中国大陸沿岸部、朝鮮半島、あるいは日本のどこか? pic.twitter.com/p8AODzdlAs
— 石井公二(『片手袋研究入門』実業之日本社より発売) (@rakuda2010) 2020年5月13日
こんなところにも、タイリクスズキです。
まとめ
・タイリクスズキは1980年代に養殖のために持ち込まれた
・現在では、養殖から逃げ出したモノが野生化して、マルスズキとの交雑種も確認されている
参考:
Kōji Yokogawa Morphological differences between species of the sea bass genus Lateolabrax (Teleostei, Perciformes), with particular emphasis on growth-related changes(2019)Zookeys 859 69-115
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/73_6_1125/_pdf
https://www.yoshoku.or.jp/gyosyu/suzuki/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/73/6/73_6_1125/_pdf
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/caution.html
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23580253/23580253seika.pdf
【スズキの生活域】海水と淡水のスイッチ切り替え・エラと脳の機能(スズキ05)
スズキの特徴の一つに、生活域の広さが挙げられます。
彼らは、河口などの汽水域を好んで生活をしますが、その一方で、完全な海水域でも、完全な淡水域でも生活する事ができます。
実際に利根川では河口から100Km以上の上流までも遡上していたという記録があるほどです。同じ汽水域に住んでいるボラなどと比べても、生活域の広さは比べようもありません。
本当に彼らの塩分変化への適応能力はすさまじいものですが、この塩分変化への適応とは一体、どのようなモノなのでしょうか?
汽水域に住むスズキ(左)とボラ(右)引用:Wikipedia Commons
塩分変化への適応とは
ナメクジを考えればイメージが湧きやすいと思います。塩をかければナメクジから水分が失われて萎みますし、水に入れればナメクジは水分を含んでブヨブヨになってしまいます。つまり外界の塩分濃度と、体の塩分濃度の違いで、水が入ってくるか、出ていくかが決まっているのです。
しかしスズキはどちらの環境でも体内の水分量と塩分量を一定に保つことができます。それは、エラに2つの機能があるからです。
海水魚型のエラ
海水魚のエラは、塩分を輩出する機能があります。
つまり、海水への移行に伴い、外界の塩分濃度が上がるために、体内から水出ていくようになります。(ナメクジでいうところの縮む状態)
スズキも海水の中では脱水の危機に直面しているのですが、彼らは、まず海水をたくさん飲んで、水分を吸収する事で脱水状態を回避します。
ただし、それだけでは、体内の塩分が過剰になってきますので、同時にエラから塩分を輩出する事で、体内の水分と塩分のバランスを保っています。
下の表は、海外研究者の論文であるためにスズキが記載されていないのですが、淡水魚と海水魚に分けて飲水量と体内塩分量を比較しています。
参考:Perrott 1992 Fish Physiology and Biochemistry、体内塩分濃度は原著では浸透圧/(mOSM/kg)として記載
表を見ていただくと、海水魚と淡水魚の飲水量には大きな違いがあることが分かります。また、体内の塩分濃度には大きな違いがありませんから、余分な塩分を出しているという事も分かります。
淡水魚型のエラ
海水魚のエラは、塩分を取り込む機能があります。
海水から淡水への移行に伴い、外界の塩分濃度が下がるために、体内に水がたまるようになります。(ナメクジでいうところのブヨブヨに膨れる状態)
それを回避するために、淡水域のスズキは大量の塩分濃度の低い尿を出します。それに加えて、淡水にわずかに含まれている塩分をエラから取り込む事で、体内の水分と塩分のバランスを保っています。
正反対の機能をもつエラ
つまり、スズキのエラは海水魚型にも、淡水魚型にもなれるという事です。
しかし、機能が正反対でために、2つの機能が同時に働かないようにしなければなりません。
つまり自分がいる環境が海なのか、川なのかを感知するセンサーとそれを決定するスイッチが必要となります。ではセンサーとスイッチはどこにあるのでしょうか?
センサーとスイッチは2本立て
エラの機能
外界の塩濃度を感知するセンサーはエラにあると言われています。
つまり、海水型のエラの細胞が、排出すべき塩分が体内にないと感知された場合、海水型のエラは自然と淡水型のエラに変換されます(エラの細胞が入れ替わります)。
つまり、エラはセンサーとスイッチの役割をしている訳です。
脳の機能
また、脳の中の脳下垂体という部分もセンサーとスイッチの役割をしています。
体内の塩濃度が下がってきたのを脳下垂体の細胞が感知します。その後、プロラクチンというホルモンが分泌され、それがエラの機能を変化させる事が報告されています。
実際に脳下垂体を切除すると、淡水適応できないという事が知られていますので、脳もスイッチとして機能している事は間違いないと考えられています。
最後に
彼らは淡水域と海水域を行き来して、生活の範囲を広げる事で、稚魚の生存率を上昇させ、体を保持するための餌の確保をする事ができました。
スズキの適応能力の高さは、生存競争の中でかなりの武器になったのではないでしょうか?
まとめ
・スズキは汽水域だけでなく、完全な海水でも完全な淡水でも生活する事ができる
・外界の塩分濃度に対応するために、エラから塩分を排出したり、吸収したりと、その機能を使い分けている
・エラの機能の使い分けに関わるセンサーとスイッチは、エラと脳の2本立てになっている
参考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci/66/4/66_325/_pdf
https://www.press.tokai.ac.jp/webtokai/uminiikiru4.pdf
N. Perrott, C. E. Grierson, N. Hazon & R. J. Balment Drinking behaviour in sea water and fresh water teleosts, the role of the renin-angiotensin system(1992) Fish Physiology and Biochemistry volume10, pages161–168
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/05/84-10-02.pdf
http://www.nougaku.jp/award/2019/2Inokuchi.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/83/4/83_WA2417/_pdf/-char/ja
【本当にスズキですか?】レストランの魚の不正表示(スズキ04)
日本食ブームのおかげで、現在はアメリカでも日本語OKで美味しい寿司を食べることができます。一方、お寿司以外では、海外で魚を食べる機会は意外と少ないと感じます。
アメリカのレストランでメニューを見ても英語だらけでピンと来ませんから、足が遠のいてしまうのも無理はありません。
どうしても食べないといけない状況では、私は知っている単語を見つけては、それを注文してしまいます。主にマヒマヒでしょうか。マヒマヒは英語でMAHI‐MAHIと表記し、ハワイ語でシイラを意味します。
マヒマヒのソテーとシイラ 引用:Wikipedia Commons
魚体がグリーンというその見た目の割には、おいしそうなマヒマヒのソテーです。しかし、いつもマヒマヒでは芸がないですから、何か他に無いかと探しますと、MAHI-MAHIの次にメニューの中で目立つのはシーバス(Sea Bass、日本名;スズキ)でしょうか。マヒマヒに比べ、食べなれている分、安心感があります。
では、このシーバスですが、あなたが注文すると、どのような料理が出てくるでしょうか?
おそらくは、このような形で提供される思います。
美味しそうです。実に美味しそうですが…この魚は、本当にシーバスなんでしょうか…?
シーバスとは
もちろん、スズキの事です。
以前の記事でも紹介しましたが、スズキ目の分類は混乱しているので、難しい部分もあるのですが、一般的にスズキに分類されるのは以下の5種類です。
日本近海の3種、マルスズキ、ヒラスズキ、タイリクスズキ。これらはスズキ目スズキ科です。これに加えて、海外の2種類、欧州のヨーロッパスズキと北米のストライプドシーバスです。これらはスズキ目モロコ科です。
下の写真は、ヨーロッパスズキとストライプドシーバスを示していますが、特にヨーロッパスズキは、遺伝的にも日本のスズキと似ているという事もあり、非常に似ています。
ヨーロッパシーバス(左)とストライプドシーバス(右) 引用:Wikipedia Commons
ではアメリカのレストランで提供されるのは、この5種類の中のどれなのでしょうか?
アメリカのレストランのシーバスは…
アメリカのレストランで提供されるシーバスの実に55%はシーバス以外の魚だと報告されています。これは2019年、魚の不正表示を調査しているオセアナ(Oceana)により明らかになりました。
それでは、どのような魚がシーバスとして提供されているのでしょうか?
スズキに近いバラマンディ
スズキ目 アカメ科 バラマンティ
バラマンディ(左)とアカメ(右) 引用:Wikipedia Commons
バラマンディはアカメ科です。アカメは主に、西日本の汽水域(特に宮崎と高知)に住む幻の魚として知られています。かつては、アカメとバラマンディは同種とされていたのですが、1984年にアカメが新種として認められました。
その後2007年にはアカメは絶滅危惧IB類として、非常に希少な魚として扱われていますが、一方で、バラマンディは「スズキ」と偽ってアメリカのレストランで提供されているという状況に至っています。
バラマンディという名前からちょっと怪しい魚であるという感覚もあるかもしれませんが、見た目はスズキに似ていると分かると、その違和感は薄れるかもしれません。ちなみに2003年まで「白スズキ」という名前で、日本でも流通していたナイルパーチもアカメ科に分類されます(下図)。
こちらもスズキにそっくりです。
ナイルパーチはアフリカからヨーロッパへの輸出が多い魚です。ヨーロッパのレストランでは簡単に出会う事ができると思います。
スズキとは名前だけのメロ
メロ(マジェランアイナメ) 引用:Wikipedia Commons
これの魚は、かつて日本でも、銀ムツとして売られていて、実はなじみ深い魚です。2003年以降は、JAS法の改訂に伴い、「銀ムツ」という商品名での販売が禁止されて、「メロ」という名前になりました。
日本では鍋に入れる魚というイメージです。
一方、アメリカではチリアンシーバス(チリのスズキ)として、流通されています。この流通名はアメリカ食品医薬品局(FDA)が認めていますので、その影響が大きいと思われます。
形を見ていただけると分かるように、シーバスとは名前だけで、スズキというよりもハタに近い魚です。アメリカで比較的有名なブラックシーバスもハタ科の魚です。
ちょっと無理のある種も…ティラピア
このあたりから、スズキとは言い難いような魚が「スズキ」という名前で提供されています。
ティラピア(左)とエンジェルフィッシュ(右) 引用:Wikipedia Commons
ティアピアです。この仲間にはエンゼルフィッシュなども含まれいますから、かなりスズキとは異なります。
下はティラピアのグリルですが、こうなってしまうと「ティラピア」なのか「スズキ」なのかは、もう分かりません。
ティラピアのグリル 引用:Wikipedia Commons
このように、スズキとは名ばかりの名前の魚がアメリカのレストランでは提供される訳です。それを避けるのも良し、あえて食べてみるのも良しだと思います。
関連記事
・スズキ目は寄せ集めの集団
まとめ
・アメリカのレストランではシーバスとして提供される魚の55%が、実はシーバスではない
・日本でもそのような状態があったが、2003年の食品表示の法律の改正で改められた
参考
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/031100152/?P=1
https://ja.wikipedia.org/wiki/マジェランアイナメ
https://en.wikipedia.org/wiki/Dissostichus
【津本式】下処理がブランド魚を生み出す・究極の血抜き(スズキ03)
スズキの代名詞と言えば「出世魚」という肩書だと思います。
地方によって呼び名はありますが、25cmくらいのものをセイゴ、40cm前後のものをハネ(フッコ)、60cm以上のものをスズキと呼ばれます。
オタマジャクシとカエルの関係や、アマゴとサツキマスの関係であれば、名前が異なるのはわかるのですが、スズキは成長に伴って形態を変えるような魚ではありません。
ではなぜ、名前を変える必要があったのでしょうか?
出世魚という概念を作った魚屋さん
名前が変わる理由は、魚屋さんが取引のためにつけた名前だと言われています。実際、スズキは体長によって身の硬さや脂の乗りが異なりますので、魚屋さんにとって、商売上、必要な呼び方だったという事です。
今回の記事では、その魚屋さんにフォーカスしたと思います。
皆様は、最近、話題になっている魚屋さんをご存じでしょうか?
魚屋さんの個人名がなかなか話題に上がる事はないのですが、宮崎県に長谷川水産の津本光弘さんはちょっと違います。
津本さんは、魚の鮮度を保つための独特な下処理を開発されて、釣り人や料理人から非常に注目されている魚屋さんです。
津本式・究極の血抜き
ではまず、「津本式」を見ていただきたいと思います。
YouTubeの現在までのチャンネル登録者は16万人、シリーズは200もある大人気のシリーズとなっています(2020年5月時点)。下記リンクはスズキバージョンです。
https://www.youtube.com/watch?v=uzQkl0LCNjs
https://www.youtube.com/watch?v=Z2CajR3pZAU
これまで、「神経抜き」という方法は聞いた事がありますが、エラから水を入れて動脈の水を抜き出す「究極の血抜き」という方法はかなり独特です。
このような手法はどうやって開発されたのでしょうか?
開発の経緯
下にはスズキの断面図を示しています。
背骨の下側に動脈があるので、原理的には、そこから血液が抜けていると理解できるのですが、それでも頭で考えられるほど簡単ではありません。
朝日新聞のインタビューによりますと、実は偶然の発見だという事を告白されています。2016年にヒラメを下処理していた際に、エラをホースで洗っていると、尾の断面から血が噴き出している事に気づいたという事でした。
これによって既に死んだ魚からも、血を抜く事ができるというのですから、革命的な発見です。
現在の津本式
現在、津本さんは「津本式」の技術者を育てるために、公認試験を行っています。対象は主に料理人という事らしいですが、津本式のファンの方も公認試験に参加されているとの事です。
この公式試験で認定されると、「津本式の魚を食べる事ができるお店」として対外的に「津本式」というブランドを使用できるようになります。
一昔前までは、魚のブランドと言えば産地で決まっていましたが、現在はそれが下処理の部分にまで進んでいるという事です。
魚をブランド化する下処理
活〆は英語でikejimeとして表記され、急所突きはIke-spikeとして海外で売られています。
このIkejimeと言う言葉は、海外に魚をブランド展開する際に使われ始めました。
それが徐々に浸透して、今ではフランス人漁師が漁船上でIke-spikeで魚を活〆して、地元のレストランに倍の値段で卸しているとの事です。つまり、活〆自体が海外でブランドを確立しているという事ですね。
そういう意味では津本式も、そのうち英名が付いて、メニューにSea bass with Tsumoto methodと記載される日も遠くないかもしれません。
魚好きの日本人らしい、日本が誇る技術だと思いました。
追伸
ちなみに出世魚は英語でShusseuoで日本語のままですが、
神経抜きはSCD(Spinal cord destruction、脊髄破壊)と言うプロレスの技のような表記がされています。
本の紹介
津本式 究極の血抜き
参考
https://tsumotoshiki.com/?page_id=2
https://www.asahi.com/articles/ASN3D6X4TN39TNAB00P.html
https://plus.luremaga.jp/_ct/17339362
https://en.wikipedia.org/wiki/Ikejime
http://www.discovernikkei.org/ja/journal/2019/5/15/seiichi-yokota/