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【カワウ】アユの天敵は制御不能の鳥類・カワウ(アユ03)

アユの天敵と言えば、ブラックバスやスズキが挙げられる事がありますが、なんと言っても最大の敵は「カワウ」です。

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この記事では、アユの天敵としての「カワウ」にフォーカスして行きたいと思います。

カワウとは

カワウは体長約80㎝のウ科に分類される鳥類です。漢字では河鵜(川鵜)と書き、主に川に生息している鵜(う)である事に由来しています(ただし、実際のカワウは河川だけでなく、河口や沿岸域にも住んでいます)。

水中に潜る能力に長けており、魚類を採食します。鵜飼いに使われているウミウ(海鵜)は、近縁種の鳥で、細かい違いはあるのですが、見た目はほとんど同じですので、パッと見で判断する事はほとんど不可能です。

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  左)カワウ、右)ウミウ 引用 Wikipedia commons

増殖し続けるカワウ

日本全域に広く生息するカワウですが、1970年代には日本全体で3000羽以下という時代がありました。この減少の原因は、高度成長期に伴う水質汚濁や内湾の埋め立てが原因だと考えられています。

その後、社会的な環境意識の向上によって、河川水質が改善された事で、カワウの餌となる魚が増え、1990年代以降になると飛躍的に増加しました。現在では15万羽以上のカワウが日本に住んでいると推測されています。

カワウはどのくらいのアユを食べているのか

さて、そのカワウですが、どのくらいのアユを食べているかという調査が山梨県水産技術センターで行われています。

2002~2008年にかけての山梨県内で捕獲されたカワウの胃の内容物の調査です(井口恵一朗2008年、坪井潤一2010年報告)。

その報告によりますと、カワウの餌で多かったのは、ニジマス26%、アユ24%で、上位2魚種ともに放流によって維持されている魚種で、半分を占められていました。

カワウの食費は?

さらにこの調査が面白いのは、なんとカワウの食費を計算しているところです。

カワウは、一日に500g程度の食事をしますので、それと、カワウの数・アユの摂食量・期間から食費を計算しています。見てみましょう。

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  参考 坪井潤一(2010)を改変

全体で1.8トンという途方もないアユを食べています。

上図は2008年の山梨県のデータをもとにされていますので、現在はカワウの量も増えてさらに被害が大きくなっているかもしれません。

しかし、山梨県の1.5か月間だけで、600万円を超える被害がでているのはちょっと驚きです。

当然、被害は放流個体だけではない

アユの放流後は、当然、川の中でのアユの密度が一時的に上がります。そのため放流後のアユはカワウの絶好のターゲットになってしまいます。そして、当然、野生のアユにもその被害は及びます。

特に春先の遡上時期には、アユが群れになって川を上っていきますから、この時期には河川の堰にカワウが陣取っている姿がよく見られます。

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  河川の堰に陣取るカワウ

そして、パクリです。

もう一丁。

今度は稚アユの群れです。

数日をかけて遡上してきた稚鮎をいとも簡単に食べてしまいます。本当に悲しくなってしまいます。何とも憎らしい気持ちと、それが自然であるという達観した気持ちが入り交じり、何とも言えない状況です。

この状況が「良い」という感覚はもちろんないですが、この先、カワウとの関係は一体どうなってしまうのでしょうか?

カワウとの共生は可能なのか?

カワウは現在、完全に害鳥として認識されるようになりました。同じ魚類をターゲットとしているミサゴに比べ、水の中に潜る能力が高い分、たくさんの餌をとる能力がある事と、繁殖能力が高い事が原因だと思われます。

また、各河川では、アユやアマゴの放流が行われていますので、カワウにとって容易に餌が取れる環境が整っていると考えられます。

つまり、何か対策をとらなければならない状況になっていますので、現在は共生どころの話ではありません。

実は1990年代からカワウ対策は始まっている

カワウの問題は、今に始まった事ではなく、実は1990年代には認識されています。

実際に滋賀県では、1990年代に全個体数の50‐80%のカワウを銃器で駆除してきましたが、2001年までに個体数は減るどころか、4倍にまで増加してしまいました。この増加率は、駆除をしていない愛知県や東京都とほぼ同じでした。

短期的に考えると、狩猟による駆除や卵の撤去などが有効的な手法だと考えられます。しかしながら現在では、駆除のためにカワウをいくら獲ったとしても、その数はコントロールできないと考えられています。

つまり制御不能な状態なんです。

この状態から抜け出すためには、カワウと水産資源のバランスがどこで取れるかという長期的な仮説を立てて、それを一つ一つ検証していく事が大切だと考えられます。

すぐに結果が出ないので試行錯誤を覚悟で、彼らと付き合っていく必要があるという事です。

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まとめ

・カワウはアユの天敵

・アユの放流事業にとっても大きな打撃を与えている

・駆除では、カワウの個体数をコントロールできない

・カワウとの共生は、長期的な仮説と、長期的な検証が必要

 

参考

井口恵一朗 放流アユ種苗を食害するカワウの摂餌特性(2018)水産増殖 (Aquaculture Sci.) 56 (3) 415-422

https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci/56/3/56_415/_pdf

全国内水漁業協同組合連合会山梨県水産技術センター 坪井潤一 Let’sカワウ対策

http://www.naisuimen.or.jp/jigyou/kawau/letskawau_A4.pdf

 

カワウ対策(全国内水漁業協同組合連合会

http://www.naisuimen.or.jp/jigyou/kawau/03-1.pdf

カワウの一般的情報

https://ja.wikipedia.org/wiki/カワウ

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