【本当にスズキですか?】レストランの魚の不正表示(スズキ04)
日本食ブームのおかげで、現在はアメリカでも日本語OKで美味しい寿司を食べることができます。一方、お寿司以外では、海外で魚を食べる機会は意外と少ないと感じます。
アメリカのレストランでメニューを見ても英語だらけでピンと来ませんから、足が遠のいてしまうのも無理はありません。
どうしても食べないといけない状況では、私は知っている単語を見つけては、それを注文してしまいます。主にマヒマヒでしょうか。マヒマヒは英語でMAHI‐MAHIと表記し、ハワイ語でシイラを意味します。
マヒマヒのソテーとシイラ 引用:Wikipedia Commons
魚体がグリーンというその見た目の割には、おいしそうなマヒマヒのソテーです。しかし、いつもマヒマヒでは芸がないですから、何か他に無いかと探しますと、MAHI-MAHIの次にメニューの中で目立つのはシーバス(Sea Bass、日本名;スズキ)でしょうか。マヒマヒに比べ、食べなれている分、安心感があります。
では、このシーバスですが、あなたが注文すると、どのような料理が出てくるでしょうか?
おそらくは、このような形で提供される思います。
美味しそうです。実に美味しそうですが…この魚は、本当にシーバスなんでしょうか…?
シーバスとは
もちろん、スズキの事です。
以前の記事でも紹介しましたが、スズキ目の分類は混乱しているので、難しい部分もあるのですが、一般的にスズキに分類されるのは以下の5種類です。
日本近海の3種、マルスズキ、ヒラスズキ、タイリクスズキ。これらはスズキ目スズキ科です。これに加えて、海外の2種類、欧州のヨーロッパスズキと北米のストライプドシーバスです。これらはスズキ目モロコ科です。
下の写真は、ヨーロッパスズキとストライプドシーバスを示していますが、特にヨーロッパスズキは、遺伝的にも日本のスズキと似ているという事もあり、非常に似ています。
ヨーロッパシーバス(左)とストライプドシーバス(右) 引用:Wikipedia Commons
ではアメリカのレストランで提供されるのは、この5種類の中のどれなのでしょうか?
アメリカのレストランのシーバスは…
アメリカのレストランで提供されるシーバスの実に55%はシーバス以外の魚だと報告されています。これは2019年、魚の不正表示を調査しているオセアナ(Oceana)により明らかになりました。
それでは、どのような魚がシーバスとして提供されているのでしょうか?
スズキに近いバラマンディ
スズキ目 アカメ科 バラマンティ
バラマンディ(左)とアカメ(右) 引用:Wikipedia Commons
バラマンディはアカメ科です。アカメは主に、西日本の汽水域(特に宮崎と高知)に住む幻の魚として知られています。かつては、アカメとバラマンディは同種とされていたのですが、1984年にアカメが新種として認められました。
その後2007年にはアカメは絶滅危惧IB類として、非常に希少な魚として扱われていますが、一方で、バラマンディは「スズキ」と偽ってアメリカのレストランで提供されているという状況に至っています。
バラマンディという名前からちょっと怪しい魚であるという感覚もあるかもしれませんが、見た目はスズキに似ていると分かると、その違和感は薄れるかもしれません。ちなみに2003年まで「白スズキ」という名前で、日本でも流通していたナイルパーチもアカメ科に分類されます(下図)。
こちらもスズキにそっくりです。
ナイルパーチはアフリカからヨーロッパへの輸出が多い魚です。ヨーロッパのレストランでは簡単に出会う事ができると思います。
スズキとは名前だけのメロ
メロ(マジェランアイナメ) 引用:Wikipedia Commons
これの魚は、かつて日本でも、銀ムツとして売られていて、実はなじみ深い魚です。2003年以降は、JAS法の改訂に伴い、「銀ムツ」という商品名での販売が禁止されて、「メロ」という名前になりました。
日本では鍋に入れる魚というイメージです。
一方、アメリカではチリアンシーバス(チリのスズキ)として、流通されています。この流通名はアメリカ食品医薬品局(FDA)が認めていますので、その影響が大きいと思われます。
形を見ていただけると分かるように、シーバスとは名前だけで、スズキというよりもハタに近い魚です。アメリカで比較的有名なブラックシーバスもハタ科の魚です。
ちょっと無理のある種も…ティラピア
このあたりから、スズキとは言い難いような魚が「スズキ」という名前で提供されています。
ティラピア(左)とエンジェルフィッシュ(右) 引用:Wikipedia Commons
ティアピアです。この仲間にはエンゼルフィッシュなども含まれいますから、かなりスズキとは異なります。
下はティラピアのグリルですが、こうなってしまうと「ティラピア」なのか「スズキ」なのかは、もう分かりません。
ティラピアのグリル 引用:Wikipedia Commons
このように、スズキとは名ばかりの名前の魚がアメリカのレストランでは提供される訳です。それを避けるのも良し、あえて食べてみるのも良しだと思います。
関連記事
・スズキ目は寄せ集めの集団
まとめ
・アメリカのレストランではシーバスとして提供される魚の55%が、実はシーバスではない
・日本でもそのような状態があったが、2003年の食品表示の法律の改正で改められた
参考
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/031100152/?P=1
https://ja.wikipedia.org/wiki/マジェランアイナメ
https://en.wikipedia.org/wiki/Dissostichus