スズキ01【分類学】メバルから考えるスズキ目が再分類されるまで
世界のフィッシングメーカーSHIMANOの魚拓カレンダーですが、5月の魚拓は鱸です。このスズキの体長は91cmという事です。
まさに河口域生態系の頂点捕食者を思わせる口の大きさが特徴的です。
5月の魚拓:スズキ(引用:シマノフィッシングカレンダー)
そのスズキに関してですが、この記事では、スズキ目の多様性に注目して、分類学というものに触れていきたいと思います。
スズキ科の3種
スズキはスズキ目スズキ科の魚です。日本に住むスズキ科の魚はスズキ(マルスズキ)、ヒラスズキ、タイリクスズキの3種類がいまして、上の魚拓のスズキはマルスズキとなります。
以前はアカムツ(ノドグロ)や、アラもスズキ科に分類されていましたが、現在は、それぞれホタルジャコ科・ハタ科に分類されています。
続きまして、スズキ科の上位の分類であるスズキ目に注目してみましょう。
寄せ集めのスズキ目
日本に住むスズキ科の魚は3種類でしたが、スズキ目はどうでしょうか?
スズキ目に分類される魚は、ボラ・ハタ・キス・アジ・サバ・マグロ・シイラ・イサキ・メジナ・タイ・コバンザメ・チョウチョウウオ・ハゼ・ギンポなど多種多様で、日本にいる約3000種類の魚のうち47%がスズキ目に分類されています。
魚の約半分がスズキ目という事です。
このように大所帯なった理由は、魚を分類する際に、まず魚の外見でカレイ目、フグ目、カサゴ目などを分類した後に、残りの魚をスズキ目に割り当てたという歴史にあると言われています。
そして、寄せ集めの集団であるが故に、スズキ目内での近縁関係も不明瞭です。
下の写真はギンポですが、「ギンポもスズキ目でスズキの仲間なんだなんよ」と言われると、ちょっとピンときませんよね。
このような背景もあり、研究者のなかで定期的に再分類の動きもあるのですが、魚類の約半分を再分類する必要が出てきますので大変な仕事になるだろうと想定できます。
では、今後、スズキ目を再分類する際には、どのような分類基準が必要とされるのでしょうか?最近のメバルの例を見てみましょう。
メバルが日本から消えた2008年
非常になじみ深い魚ですが、2008年に日本魚類学会は、従来までの「メバル」いう分類を「アカメバル」、「クロメバル」、「シロメバル」という3種類に分類し直しました。
なぜ、こんな事が起こったのでしょうか?
そこに至るまでの3つのポイントを紹介したいと思います。
ポイント1:歴史
実は100年前も昔から、メバルには3種類いるのではないかと言われてきました。
体の色が異なるので、そう考えるのは当たり前なのですが、それが個体差なのか、種の違いなのかという議論には決着がつきませんでした。
ポイント2:形態
形態学的には、胸ビレの筋(軟条)の数が異なることが分かっていました。アカメバルは15本、クロメバルは16本、シロメバルは17本です。
赤矢印が胸ビレの筋(軟条)
さらに、体の横にある側線上の穴のあいた鱗の数(側線有孔鱗数)やエラのひだの数(鰓耙数)も3種の中で異なる事が知られていました。
これらは分類学的に決定的な違いなのですが、これだけではまだ再分類には至りませんでした。
ポイント3:DNA解析
2008年に京都大学がPCR法でDNAを広範囲に比較する手法を用いて、メバルの3種類に遺伝子レベルでの違いがある事を報告しました。
一般的に、DNAの比較に関しては、ミトコンドリアDNAの比較がよく使われるのですが、3つの種が近縁であるために違いが検出できず、非常に難しい研究だったとの事です。
そしてこれがメバル再分類の決定打となりました。
そして決着
2008年の京都大学の研究結果は、日本魚類学会の学術雑誌に掲載されました。
これは学会が、新しい分類を認めたという事を意味しています。
現在、よく書店で平積みになっている「小学館の図鑑NEO魚」では、2011年度版からメバルという表記は消えて、3種類のアカメバル・クロメバル・シロメバルの名前が併記されていますので、完全に定着しているという事が分かります。
下のリンクでは、時代の変遷に伴う図鑑の変化を確認できますので、ご覧いただければと思います。
スズキ目はどうなるか?
メバルの例は理解できましたが、今後のスズキ目はどうなるのでしょうか?
歴史的に見ても、分類しきれていない事は明白だと思います。しかし、あまりにも種類が多い事が問題です。
さらにメバル種の細分化と異なり、スズキ目の再定義となりますから、進化的な側面も考慮しなければなりません。
つまり「かなりの難問」であるという事です。
色々な提案がなされているようですが、それが定着するまでは、この現状はしばらく続くと思われます。
そんなに難しいのなら、そもそも分類なんていらないのでは?という意見もあると思いますので最後に
分類学は必要か?
分類学とはいわば、「生物を理解するための地図作り」です。
地図は毎日の生活には必要ないものですが、自分の生活圏を俯瞰しようとすると途端に必要になってきます。また、正確でなければ何の意味もありません。
つまり生物を大きく理解するためには、正確な分類が必要なのです。
ゆえに分類学に従事する学者は「分類の変更」に対し慎重になる傾向があると思います。そして、そのあたりを理解していただければ、スズキ目の分類がこれからどうなるか楽しみになってくると思います。
追伸
皆さんは、年間でどのくらいの魚が新種として認定されているかご存じでしょうか?
その数はなんと年間400匹です。
不思議な魚を釣った時には、食べる前に調べてみてください。エキサイティングな結果になるかもしれません。
まとめ
・日本近海に住むスズキ科の魚はスズキ(マルスズキ)、ヒラスズキ、タイリクスズキの3種類
・日本の魚種のうち47%がスズキ目だが、分類はあいまい
・メバルの再分類には100年の歳月とみんなを納得させるデータが必要だった
関連記事:分類学で分かるとサケとウナギの進化
ちなみに、【右利きと左利き】の記事で紹介した鱗食魚はスズキ目の魚です。
学習によって、利き手を決める魚も知られています。
参考
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/36933.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/37/1/37_1_33/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/taxa/39/0/39_KJ00010039461/_pdf
http://notomarine.jp/center/doc/No_19.pdf
https://www.kochi-u.ac.jp/w3museum/Fish_Labo/Member/Endoh/animal_taxonomy/species_diversity.html