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フナ02【クローンで増える生存戦略】ギンブナ

今回のフナの生態は、ギンブナのクローン増殖について語りたいと思います

フナで「クローン」とか言われますと、不思議な感じを受けるかもしれませんが、彼らにとっては日常です。

クローン技術とは

クローン技術とは生き物のコピーを作る技術で、体細胞核移植と言う手法を使います。

この技術を使えば、細胞の中の遺伝情報である「核」をとってきて、別の卵に移植することで、元の細胞と同じ遺伝情報をもつ生き物を増産することができます。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200420182748j:plain 1997年に発表されたクローン羊

クローン技術といえば、1997年にクローン羊の「ドリー」がニュースになり、一気に有名になりました。

その後、マウス、豚、猫、犬、サルも報告されまして、確実な科学技術になると同時に、我々にとっては、多少の恐怖も感じる技術でもあります。

人間の世界では、あくまでもSF映画の世界の中ですが、

映画「アイランド(2005)」で、臓器提供のために作成されたヒトのクローン達が自我に目覚めて、クローン製造の依頼主に会いに行くというストーリーが思い出されます。

 

それではこのクローンとフナの関係はどんなものなのでょうか?

 

クローン的増殖をするギンフナ

上記のクローンの話はあくまでも人工的なクローン技術の話でしたが、フナの世界ではあくまでも自然の生殖方法です。

フナの一種で、一般的にマブナと呼ばれるギンブナというフナがいます。

ギンブナはオスとメスが受精して両性生殖をする個体と、母親の遺伝子セットのみを持つクローン個体がいる不思議な生態をもっています。

これは元信州大学教授の小野里 坦先生の研究によって明らかになりました。

研究から明らかになったフナの生殖方法

小野里先生は、魚類学会でフナの卵にドジョウの精子をかけても、生まれてくる子供が雑種ではなく、完全なフナばかりが生まれることを聞いて研究をはじめたとの事です

ふつうは、精子と卵が受精すると核融合が起きて、父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子が混ざって雑種をつくる訳ですからおかしな話です。

その後、先生は研究を進められて、オスの精子は卵に受精した後に核融合はせず、メスの卵だけで発生を開始するという事を発見されています(下図)。

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つまり、フナの場合は、精子の機能は「受精」ではなく、「発生の刺激」として機能しているという事です。

この場合、あくまでも「刺激」ですから、雄の精子は、フナの精子でなくとも、コイやドジョウの精子でも機能する事が知られています。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200420183831j:plainドジョウでも可です。

 

それでは、どのくらいの比率でクローン個体のフナがいるのでしょうか?

 

クローンの確率

さらに先生は北海道内の湖や川にて、どのくらいの確率でクローン個体が存在するのかを検証しています。

その結果

マリモで有名な阿寒湖では、87%がクローンで、13%が両性生殖でした。

そして、なんと網走湖では2家系のクローンが100%で、両性生殖のフナはいませんでした。

当然、クローン個体の少ない川などもありましたが、北海道全域では、62%がクローンで、38%が両性生殖個体である事が分かっています。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200420184827j:plain 阿寒湖

 

つまり両性生殖とクローン増殖を比較すると、クローンの方が多いという事です。

これは増殖するという点では、クローンの方が有利という事を示していると考えられます。

 

それでは他の生物では、このようなクローン増殖が見られるのでしょうか?

 戦略としてのクローン増殖

生物の生き残り戦略としては「子孫を増やす」事と「環境に適応する」事が大切だと思われます。

 

ミジンコを例に挙げますと。環境が良い間は、クローンで次々と増殖して個体数を増やしますが、水温の低下などの環境悪化の際には両性生殖を開始します。

これはオスとメスの遺伝子が混ざり合う事でより環境耐性の強い子供を残せるというメリットを持っています。

フナの場合はクローン発生する個体と両性生殖の個体を分ける事で、「子孫を増やす」事と「環境に適応する」事を両立しているのだと思われます。

 

まとめ

・ギンブナの生き残り戦略は2本立て、「両性生殖」と「クローン発生」

 

参考

http://brh.co.jp/s_library/interview/13/

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