アマゴの生態11【サケ類とウナギの進化】遡上はするが…起源は異なる
今回はアマゴやサケと言ったサケ類の生活史にフォーカスをしながら、彼らが「どのような進化をしてきたのか」と、同じく海と川を行き来する「ウナギとの違い」を考えてみたいと思います。
サケ類は先祖はどこから来た?海か川か?
海と川を行き来するサケ類ですが、彼らはもともと淡水魚なんでしょうか、それとも海の魚なんでしょうか?
結論から言いますと、サケ類は淡水魚が起源と言われています。
言われてみれば、なんとなくそう思っていましたが…
では、その根拠はどこにあるのでしょうか?
サケ属の比較から見える進化の道筋
まず、下の表を見てください。
表中の左では、サケ属の分類と系統樹を記載しています。
この分類は昔からある形態的な特徴とDAN配列の比較を参考に分類されています。
注意)現在、ニジマス属はサケ属に組み込まれています。アマゴやヤマメもサケ属です。
分類学的に最も古いのはイトウ属(最下段)で、その次に古いのはイワナ属です。
一方、最も新しいサケ類は、いつも食べているシロザケを含むサケ属(最上段)です。
そして、分類欄の右側には、降海型の魚がどれくらいの期間を海で過ごすかを記載しています。
この表を見ますと、最も古いグループのイトウ属は海で過ごす時間が少なく、新しく生まれてきたサケ属ほど、海で過ごす時間が長くなることが分かります。
またサケ属に近づくと、「時間的」な問題だけでなく、「空間的」にも海の利用度が上昇する事が知られています。
「空間的」とは、海に出て遠洋まで泳ぐか、河口域で過ごすかという違いがあるという事です。
つまり、イトウ属からサケ属に近づくにつれて、海洋への依存度が高くなるという事が推測でき、原始的なサケ属の先祖(現存はしていませんが)は、川で過ごしていたのではないかと考えられています。
これが、サケ類の起源が淡水魚だったのではないかと推測される根拠です。
さらに、サケ類の起源が淡水魚である事は「卵の大きさ」と「産卵数」の点からも指摘されています。
サケの卵はイクラです。
卵の大きさと産卵数
皆様のご存じの通り、サケの卵はイクラです。
大きさが約6ミリと魚類の中では大きい部類です。
同じくらいの大きさのブリの卵は、約1ミリと非常に小さいです。
この大きなサケの卵が海の中で産み落とされたらどうでしょうか?
ふわふわと海中を浮遊してしまい他の魚に食べられるので、生き残る事は難しいとのではないかと考えられます。
さらに産卵数の点でも…
サケの産卵数は1000から3000個と少ない事が知られています。
対して、同じくブリは30万から180万個の卵を産みます。すなわち、圧倒的にサケが少ないという事です。
産卵数が多ければ、当然、生き残る稚魚も多くなりますから、サケの産卵数では海で対応できないのではないかと思われます。
つまり、「卵の大きさ」と「産卵数」から考えて、サケの産卵スタイルは海洋生活には不向きなのではないかという事です。
この点も、サケ類の起源が淡水魚と考えられる所以(ゆえん)となります。
サケが淡水魚由来であるという学説は十分に理解できました。
それでは…
サケと同じく、海と川を行き来するウナギはどうでしょうか?
ウナギの起源
こちらも結論から言いますと、ウナギの起源は深海魚だろうと言われています。
まず、生活史と産卵スタイルを比較してみましょう。
まず、生まれる場所が決定的に違いますね。卵の大きさと産卵数の点でもウナギは先述のブリに近いのではないかと思われます。
そして、ウナギの起源の研究におきましても、類縁種との比較によって面白い成果が東京大学海洋研究所から報告されています。
それによりますと…
ウナギの近縁種の全DNAを比較した研究の結果、
浅い海で生活しているアナゴや、その他のウナギ属よりも、シギウナギなどの深海生物の方がウナギの近縁であることが判明しました。
つまり、ウナギは深海生まれの深海起源の魚だったという事です。種を比較する事でここまで分かるというのは、本当に驚きです。
関連記事:分類はなぜ必要か?
追伸:
今年はシラスウナギの当たり年だと言われています。彼らに思いを馳せながら、心してウナギを食べましょう。
2020年 シラスウナギ漁 好調で終了
本の紹介
ウナギの起源が深海にあるという研究にも参加された元東京大学・塚本先生の著書です。先生はまた、世界で初めて、ウナギの卵を見つけた方でもあります。
まとめ
・サケ類の起源は淡水魚だと考えれれる
・一方、ウナギの起源は深海魚だと考えれる
参考:
塚本勝巳 世界で一番詳しいウナギの話