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アマゴの生態10 サケ類は産卵後に死んで、森に帰る【生態系の循環】

以前の記事では、アマゴを含めるサケ目サケ科の仲間たちは、川に残る「陸封型」と海にでる「降海型」に分類できる事と、海にでる「降海型」の個体は海に出て数年の後に川に遡上することを紹介しました。

下の表には、サケ類の分類と降海から産卵に関する表をまとめました。

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表を見ますと、生涯で産卵する回数は種によって異なるようですが、どの種も出産後にしばらくする死んでしまします。

 

これは、産卵にすべてのエネルギーを費やす習性のためだと思われます。

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    サケの遡上

それではサケの遡上と産卵、そして、その後を見てみましょう。

サケの遡上と産卵

海で3年から5年過ごし、栄養を蓄えたサケ達は、嗅覚を使い自らの生まれた川に遡上していきます。(ここで「えっ嗅覚?」と気になった方は下のリンクを参照下さい)

サケは生まれた川に微量に含まれるアミノ酸の量と比率を記憶している

shigehara-nishiki.hatenablog.com

 

サケは生まれた川を遡上すると、まずオスとメスがペアを組みます。これは産卵のための第一段階です。

次に産卵の準備として、オスが尾びれで川底を穴を掘り、産卵床をつくります。川には流れがありますから、卵が流されないための施策です。

オスによる産卵床が完成すると、産卵床にメスが産卵し、オスが放精して受精します。

そしてなんと、その後…、サケ達は数日のうちに死んでしまいます。

 

これに関しては産卵の回数という種ごとの差はありますが、表にまとめたように、どの種類もその時が来ますと遡上・産卵してから、しばらくすると死んでしまいます。

 

では、なぜ死んでしまうのでしょうか?

f:id:Shigehara_Nishiki:20200414193810j:plain 力尽きたサケ

その理由は、消耗だと考えれます。

 

かつては、遡上中のサケ類が餌を食べないか食べるかの議論はあったと聞きますが、現在は絶対量が少ないと認識されています。

これは、海に比べて川で得られるエネルギーの摂取量が絶対的に少ないのが原因だと考えられますし、加えて遡上期間は、産卵のための遡上にエネルギーを使う優先順位が高く、餌をとらえるため行動の優先順位が低い事が原因だとも考えられます。

「食べる事」と「産む事」は生物の生態において、最も重要な事ですが、遡上時期に関しては「産むこと」が最優先になる訳です。

 

そして産卵を終えたサケは、数日のうちに死んでしまいます。

産卵を終えたサケ達は、単に死んで終わりなのでしょうか…?

そうではありません。彼らは海で2000倍の成長を遂げて森に帰ります。

つまり…

生態系は循環する

それではサケの前に、森と渓流が生み出す生態系を見ていきます。

まず、森林の落ち葉が渓流に落ちて分解される事で、渓流の栄養素(炭素や窒素)が渓流に流れ込みます。

そして、落ち葉の栄養素(炭素や窒素)を利用して、サケを含む生物たちが成長していきます。

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やがてサケ達は海で出てさらに成長し、多くの栄養素を蓄えて3年から5年後に生まれてきた川に遡上して産卵します。

その後、サケは力尽きますが、サケの死骸は渓流の水生昆虫の餌になり、渓流の栄養素として使用されますし、同時にワシ・狐・熊といった森の動物の餌にもなります。

これよって森林に運ばれるサケの量は非常に多く、例えば 熊一頭で、700匹のサケを森に運び込むという報告もあります。

一般的に、熊の食性は9割が植物だと言われていますので、(サケの捕食で)熊が増えれば、植物の種子を運ぶ役割を果たして、森林を維持・拡大に貢献することができますし、これに加えて、熊の排泄物や死骸自体も森林の栄養として取り込まれます。

 

森や渓流の生態系が送り出したサケは、遡上してまた森に帰り、生態系を回してるという事ですね。

実際に森林の木に含まれる窒素成分を調査した北海道総合研究機構の結果によりますと、サケが遡上しない流域では「海由来の窒素」の値が0以下だったに対し、サケの遡上領域では「海由来の窒素」の値が上昇していることが報告されています。 

つまり、サケの死は無駄では無く、その遡上によって、海の資源が森林で使用されているという事です。

 

まとめ

・サケ類は産卵後に死ぬという生態を持つ

・しかしその恩恵は、森林・渓流・海という生態系を循環している

 

参考

https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/topics/pdf/3302.pdf

https://mue.repo.nii.ac.jp/action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=110&item_no=1&page_id=13&block_id=17

https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/pamphlet/ikimono/pdf/ctll1r0000004lptamemasu.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/57/1/57_KJ00004593535/_pdf

http://salmon.fra.affrc.go.jp/kankobutu/salmon/salmon10_p12-14.pdf

https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/o7u1kr0000000b8b.pdf

https://www.maruha-nichiro.co.jp/salmon/jiten/jiten04.html

http://ishizuayu.web.fc2.com/umikaramoritokawahe.pdf

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