自由研究のマインドセット

日々の疑問を生活のスパイスに

【遊漁券の値段は高いか安いか】ついに来たアユ解禁日(アユ01)

6月のフィッシングメーカーSHIMANOさんの魚拓カレンダーは、季節の魚・アユです。魚拓のような30cmを超える尺鮎は釣り人のあこがれです。第二背びれである「アブラビレ」に軟乗(骨)がないのが、はっきりと分かる素晴らしい魚拓です。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200613221307j:plain

  引用:SHIMANO魚拓カレンダー6月
私が住んでいる四国では川による違いはあるものの6月から7月にかけて、アユ釣りが解禁されます。海で行う釣りとは異なり、釣りをするためには有料の遊漁券が全国的に必要になります。

遊漁券とは

河川を管理する漁協(都道府県知事の認可団体)が発行している釣りの許可証で、一般的には遊漁券と言われています。釣具屋さんや個人商店、コンビニ、スマホで購入する事ができ、一日券なら大体2,000円程度、年券(シーズン券)なら10,000円程度です。

つまり、川でアユを釣るためには、この遊漁券を購入する必要がある訳ですが、管理釣り場ではないので、そんなの買う必要ないだろうと思っていると、監視員さんに検札を求められたりします。

それでは、なぜ、こんなシステムが必要なのでしょうか?

なぜ有料なのか

漁業法(昭和24年)に基づき、アユ、アマゴなどには漁業権が漁協に許可されています。つまり、漁師さんの生業の対象となっている魚をレジャー用に釣らせて頂いている訳ですので、お金を払う必要があるのです。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200613235305j:plain

さらに、この漁業法では、各漁協に対し「魚がたくさんいる豊かで、きれいな河川の保全する」使命が課されています。

下は漁業法第百二十七条の抜粋です。

内水面における第五種共同漁業は、当該内水面が水産動植物の増殖に適しており、且つ、当該漁業の免許を受けた者が当該内水面において水産動植物の増殖をする場合でなければ、免許してはならない。

つまり、きれいな川の保全と魚の増殖をしなければ漁協として免許しない・はく奪をするという事なので、各漁協は放流事業や河川清掃を行う必要がありますし、その活動費用のために、遊漁券が必要なわけです。

でも一日、2000円という価格設定は高くない…?

遊漁券が必要な名目は分かりましたが、では、その値段はどうやって決まっているのでしょうか?

下は同じく漁業法第百二十九条の抜粋です。

遊漁料の額及びその納付の方法

遊漁料の額が当該漁業権に係る水産動植物の増殖及び漁場の管理に要する費用の額に比して妥当なものであること

 つまり、放流事業等の費用に対して、それなりの料金設定をしてくださいという法令です。

しかしながら、我々には全体の費用が分かりませんから、遊漁券の料金が妥当かどうかは分かりません。

実は赤字になりやすいアユの放流事業

料金が妥当か否かは、その収益体制にありますから、漁協の収益体制を見てきましょう。

たくさんのアユを放流しても、川を訪れて遊漁券を買う人が少なければ当然赤字となりますので、その放流コストと収益の差を見るという事になります。

以下は、2018年に国立研究開発法人水産研究で行われた調査です。

調査によりますとアユの放流事業をしていた16組合のうち、黒字になっていたのはたった3組合いで、それ以外の13組合は赤字でした。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200613222007j:plain

  引用:中村智幸内水面漁協におけるアユと渓流魚の放流事業の採算性(2018)Nippon Suisan Gakkaisi 84 (4) 705‐710、坪井潤一 放流マニュアル(2018)

グラフ内の黒点が黒字の漁協で、赤点が赤字の漁協になります。

これのグラフを見ると、3つの事が分かります。

  • 事業が大きくなれば赤字のリスクが増大している
  • 他の渓流魚と比較しても、アユは収益の黒字化が難しい
  • 黒字の3組合も、額面上の黒字と言うだけで、決して大きな利益を得ているわけではない

そのような視点で見ると、アユの放流事業は儲けが少なく、遊漁券が高めに設定されているのは当然なのかもしれません。

 

遊漁券の料金が妥当なのは理解でき始めましたが、この収益体制で、今後のアユ放流事業はやっていけるのでしょうか?

赤字回避マニュアル

このままの状態を放置するわけにいきませんので、2018年に同じく国立研究開発法人水産研究から赤字マニュアルが創刊されています。

それによりますと、赤字を回避には小型のアユを早期に放流する事がコツだという事でした。以下はポイントの抜粋です。

  • 小型のアユはコストが安いために、多くの個体を放流できる。
  • 解禁日(6月)よりも早い時期(4月)に放流すると社会性(縄張り)が増し、友釣りで釣れやすくなる。
  • 天敵であるカワウの対策としては、浮石(砂に埋まっていない石)が多い領域に放流すると生存率が高まる

だから釣りに行くと小さな個体しか釣れないのか・・・と何かわかった気がしますが、鮎の放流事業はドンブリ勘定ではいかないようです。

顧客のニーズと実情は?

更に静岡県の経済産業部の放流指針では、顧客(釣り人)のニーズや実情をつかむ事が大切であると記載されています。つまりどのくらいのアユを放流すれば、黒字化かつ釣り客が満足するのかを計算する必要があるという事です。

それに拠りますと、黒字のポイントはアユ釣りの延べ人数と一人当たりの釣果から、放流個体数を算出することです。商売としては、当たり前の事ですが、アユの放流事業の黒字化は本当にシビアなラインなので、特に注意が必要になります。

更に、顧客満足度ですが、それに直結する「期待する釣果」の調査結果を下記に示します。県内、県外の釣り人が、一回の釣行で期待するアユの釣獲匹数です。

f:id:Shigehara_Nishiki:20200613222613j:plain

  静岡県内、県外の釣り客の期待 引用;静岡県経済産業部アユの効果的な放流

一回の釣行で、平均17匹から21匹のアユを期待されていますから、それに適合するようにアユの放流量を調整して、満足度を調整する必要も出てくるわけです。

遊漁券の値段に対して、満足度が低ければ、釣り人が減少してしまいますから、さじ加減が大切だという事です。

結論(遊漁券は高いか安いか)

ここまでくると、アユの放流事業が本当にシビアな採算ラインで行き来している事が分かります。このような環境の中で関係者の方々の努力を鑑みますと、遊漁券の値段は決して高くないという感覚が生まれてきました。

ニュースで見るアユの経済効果

2018年の栃木県の那珂川のアユの経済効果です。

那珂川のアユ釣り13億円 経済効果、初めて試算 栃木県水産試験場

新聞では100%ポジティブなニュースとして報道されていますが、「 経済効果」とは、いわば売り上げなので、決してそれがすべて黒字分ではないという事に注意をしてください。

記事内で示しましたグラフを考えますと黒字があったとしても非常に少ないと考えれますので、皆様も遊漁券をきちんと買って、持続可能なアユ釣りを楽しめる未来を作りましょう。

まとめ

・遊漁券はなんだか損した気分になるが、意外にも適正な価格である

・持続可能なアユ釣りのために、気前よく払ってください。

 

参考

漁業法

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=324AC0000000267

中村智幸 内水面漁協におけるアユと渓流魚の放流事業の採算性(2018)Nippon Suisan Gakkaisi 84 (4) 705‐710

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/84/4/84_17-00069/_pdf/-char/ja

坪井潤一 国立研究開発法人水産研究 赤字にならない放流マニュアル

https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/attach/pdf/naisuimeninfo-11.pdf

静岡県経済産業部 アユの効果的な放流

https://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-130/documents/592ayu.pdf

アユ種苗の総合的な放流・活用指針

https://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-130/documents/641.pdf

 栃木県・アユの経済効果ニュース

https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/32334

 

プライバシーポリシー お問い合わせ