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【ウナギの完全養殖】価格と絶滅危惧種からの回復

 毎年のようにウナギの稚魚であるシラスウナギの漁獲量が新聞やTVで話題に上がります。

それだけ日本人の生活にウナギは欠かせない食べ物だという事です。

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ウナギは減少している

二ホンウナギはIUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)」で、絶滅危惧種にされています。

実際にシラスウナギの漁獲量も1970年代に比べ、1/5程度ですから、大幅に減少しています。

養殖で何とかならないのでしょうか?

養殖はシラスウナギの漁獲量に依存している

現在、行われている養殖は、明治時代に開始されたスタイルを受け継ぐもので、稚魚を捕まえて、餌を与えて大きくするというスタイルであるために、シラスウナギの漁獲量に依存しています。

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    シラスウナギ漁(徳島県吉野川

野生のシラスウナギは年々減少傾向ですから、当然、安定供給は期待できません。

今後、シラスウナギ漁に依存しない養殖が期待されているのですが、卵からウナギの成体を養殖できる、完全養殖の完成はいつなのでしょうか?

 

完全養殖の歴史

それでは、完全養殖の歴史を見てみましょう。

1973年に北海道大学が世界で初めて卵の人工孵化に成功しました。

ただし、生まれた幼生は5日間しか生存しなかったと報告されています。

その後も研究が続けられましたが、幼生の餌が判明していない為に、シラスウナギにまですることはできませんでした。

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そんな中、2002年にブレークスルーが起こされます。

水産総合研究センターで人工孵化した幼生からシラスウナギまで成長させた(数百日の飼育に成功)と発表されました。

更に、同センターは2010年に人工的に孵化したウナギから卵を取り出し、更に人口孵化させて2代目を作ることに成功したと発表しました(完全養殖の成功)。

 

つまりもう完全養殖ができているという事です。

期待は高まるばかりですが、ではなぜ、食卓に上がる事がないのでしょうか・・・?

 

問題はどこに?

問題は値段です。

2019年に水産庁は、これまで研究室の環境で行わていた完全養殖を商業用の養殖池に移し、稚魚から成体に育てるのに成功したと発表しました。

ただ「人工の稚魚」の価格は、「天然の稚魚」の10倍になるとの事でしたので、うな重の店頭価格としては数万円になると思われます。

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現在の研究課題は、この価格面をいかに下げるかという点です。本当に価格を下げる事ができれば、天然ウナギの値段も下がる事が期待されており、我々にとっては楽しみな限りです。

 

さらに完全養殖は、ウナギの安定供給だけでなく、野生ウナギの個体数を増やすことにも期待がされています。

これに関しては、当然の結果だと考える事もできるのですが、懸念される点もあります。

完全養殖で絶滅危惧から回復できるか?

絶滅危惧種からの回復には、乱獲を抑える必要があります。

現在のシラスウナギの漁獲量の上限は決めれれているので、これは守られていると考えれがちですが、それは違います。

実際には漁獲量の倍以上のシラスウナギが密漁されていて、乱獲状態が現在でも継続していると考えられています。

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高値で取引されるモノには、ダークサイドがつきものですが、ウナギも例外ではないようです。

ウナギの絶滅危惧からの回復には、まず「人工稚魚」の値段を下げ、全体の供給量を上げる事と、更に規制を強化する事が大切だと考えられます。

2019年には水産庁が、シラスウナギの密漁についての罰則を強化する方針を明らかにしました。罰金の最高額を10万円から3千万円に引き上げるとの事です。

 

さて、完全養殖でウナギの未来はどうなるでしょうか?

 

本の紹介

 「サカナとヤクザ」 鈴木智彦さんの密漁ビジネスの潜入ルポです。ウナギの密漁だけでなく、アワビやナマコの問題も記載されています。

 

「世界で一番詳しいウナギの話」 ウナギの権威、元東京大学・塚本先生の著書です。先生は世界で初めてウナギの卵を見つけた方でもあり、ウナギの未来を最も考えている方です。

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まとめ

・ウナギ完全養殖は可能になった

・価格がまだ高いので、流通までには至っていない

 

参考

https://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/news/fnews_unagi.pdf

https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-080-12-12-g472

http://www.fra.affrc.go.jp/kseika/220529/program3.pdf

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46433940R20C19A6EA4000/

https://c-faculty.chuo-u.ac.jp/blog/kaifu/2015/10/20/密漁ウナギに出会う確率は50%EF%BC%85%EF%BC%9F/

https://bunshun.jp/articles/-/8236

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51589050Q9A031C1EE8000/

 

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